ミニマガつみき

療育のコツ・子育てのこつ

第21号 2007.08.09:「記録の取り方」

<療育のコツ、子育てのこつ>
今日のテーマ「記録の取り方」

ABAに記録はつきものです。ABAの研究者はしばしば「記録フェチ」と言ってもいいくらい、記録を愛好し、記録にこだわります。

ABAの研究者が記録にこだわるのは、子どもの行動について客観的な記録を取って、介入(療育)の前後でそれを比較することによって初めて、その介入に効果があった(なかった)、と言えるからで、ABAが科学的な療育法、と言われる所以です。

そうやって客観的なデータを取ることで、初めてABAは「うまくいってるつもり」「役に立ってるつもり」の従来の心理療法から脱却し、「効き目のある療法」になることができたのです。ですから彼らが記録を取ることは、とても大切なことなのです。

しかし親であり、セラピストである私たちは、科学者ではありませんから、何もそんなに記録にこだわる必要はありません。
私たちにも記録は必要なのですが、「まず記録ありき」になってしまわないように、「わが子のセラピーに役立つ限度での記録」を心がける必要があります。そうでないと、記録の山に埋もれて、肝心のセラピーにエネルギーを割けなくなってしまうからです。

では私たちにどんな記録が必要なのでしょう。

これは、1人でセラピーをやっているか、複数で協力してセラピーをやっているか、によって変わってきます。1人でやっている場合には、覚え書き程度のもので十分ですが、多人数でやっているときは、それだけしっかりした記録を取る必要があります。

片親あるいは両親だけでセラピーをやっている場合は、そんなに詳しい記録は必要ありませんが、それでも最低限、一冊のノートを用意し、そこにその日やったプログラムとその結果を書き留めておきましょう。

できたら、前の晩か当日の朝に、その日やるつもりのプログラムを書いておき、セラピーの時に、実際にやったプログラムだけ、チェックするようにするといいと思います。前もって、どんなプログラムをするか、計画を立てておかないと、どうしても行き当たりばったりになってしまうからです。

それから、子どもが今出来ていることは、特に最初のうちはちゃんとリストにしておきます。例えば動作模倣や音声指示、音声模倣のレパートリーのことです。記憶に頼っているだけだと、毎日きちんと復習できないし、果たして進歩しているのかどうか、もはっきりしないですから。
時々、ご家庭にお邪魔すると、動作模倣や音声指示のリストすら用意しておられない方がいて、そういう人にはすぐに書いてもらうようにしています。

米国のABAエージェンシーでは、ディスクリートトライアルの1試行ごとの記録を重視するところが多いのですが、私たちが家庭でセラピーをする際、いつも1試行ごとの記録を取る必要はないと思います。

私も、最初はどのプログラムも1試行ごとに記録していましたが、そのうち、課題も増えてきて、煩わしくなってきたので、やめました。その代わり、ランダムローテーションで、「10試行中9試行以上」の基準をクリアできるかどうか、確かめるときだけ、1試行ごとの記録を取るようにしました。途中で崩れて、プロンプトだらけになってしまったら、記録を打ち切ります。

ランダムローテーションで記録を取るのは、「できたつもり」にならないためです。10試行中9試行以上、というのは最初はなかなか達成できませんが、本当に子どもがその課題を理解して、しかも注意力が維持されると、ちゃんと達成できるものです。自らに厳しい基準を課すことによって、自分のセラピーの技量も、子どもの状態も、向上させることができました。

1 試行ごとの記録の仕方は、「つみきBOOK」に書きましたが、プロンプトなしの正反応は+、プロンプト付きの正反応は+p、誤反応や無反応は-、と記録します。これはお好みですから、○、△、×でもかまいません。

数人のセラピストを雇って本格的に長時間のセラピーを行う場合には、もっとしっかりした記録を取る必要があります。記録ノートも、系統だったものにする必要があるでしょう。

例えば、記録ノートの最初のページは、セラピストの「出勤簿」にします。その日の日付、時間帯、担当者の名前を書く欄を設けます。その右に、簡単なコメント欄を設けるといいかもしれません。

次のページには、現在進行中の課題の一覧を載せます。その右に日付欄を用意し、その日、する予定の課題に○をつけておきます。それをセラピストが見て、実際にやった課題にチェックを入れていくのです。そうすれば、その日の計画がどの程度実行できたかが、一目瞭然でわかります。一日に複数のセラピストが担当する場合には、チェックマークの代わりに、自分のイニシャルを書き込みます。

その次に、これまでやった課題をジャンルごとにまとめておきます。その右には日付欄を用意し、復習した日にチェックを入れておくといいでしょう。習得済みの課題でも、時々復習しないと、子どもは忘れてしまうものですから。

その次に、進行中の各課題について、細目を記入するページを設けます。ここには、冒頭のページに課題の名称、プログラムの細目、教え方、を書いておきます。次のページからは、各細目ごとに、1試行ごとの記録用紙を挟んでおくか、もっと簡単にしようと思ったら、その日の「初回反応」だけを記録してもらうようにします。

こう書くと割と簡単なようですが、実際にこういう本格的な記録ノートを作ろうとすると、なかなかどの課題にもぴったりする記録方法、というのはなくて、四苦八苦することになります。
最初から意気込んで、詳しい記録シートを作っても、結局、日々のセラピーに追われて、記録を見ている暇さえない、と言うことになりがちですので、最初は無理せず、最小限の記録からスタートしましょう。

<綾ちゃんニュース>
今週も綾ちゃんは、お父さんとお母さんの愛情を一心に受けて、幸せ一杯です。

今週のニュースは、「綾ちゃん、枕を足で蹴る」です。

綾ちゃんとお父さん(つまり私)、お母さんは、いつも畳の部屋で、布団を三枚並べて寝ています。綾ちゃんはその時の枕の並べ方にこだわりがあって、全部で5つもあるわが家の枕を全部決まった順番に並べてから寝ます。

綾ちゃんが枕を並べるまでは、お母さんが枕をいつもてんでバラバラに置いています。最近まで、綾ちゃんはそれを一つ一つ両手でていねいに持ち上げて、置き直していました。

ところが最近、綾ちゃんのやり方が変わったことに気がつきました。

すべての枕を両手で持ち上げてていねいに並べ替えるのではなく、まずは邪魔な枕を乱暴に足で蹴って場所を確保し、それからその場所に置くべき枕を両手で取り上げて、所定の位置に置くようになったのです。

それがどうしてニュースかというと、綾ちゃんはそれまで足をそんな風に器用に使ったことはなかったのです。何をするにしても、いつも手を使っていました。それを、手の代わりに足を使うなんて、何て画期的なんだろう、と私は思ったのでした。

とてもお行儀が悪いけど、また一つ、賢くなったんだね、と、心の中で綾ちゃんをほめてあげたのです。

以上、今週のトリビアな綾ちゃんニュースでした。

藤坂