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ABAとは
ことばの遅れと自閉症
わが子のことばの遅れが気になっている親御さんへ。
1歳半を過ぎてもことばがなかったり、2歳になっても一握りの単語からなかなか増えなかったりしたら、何らかの障害を疑う必要があります。
さらに目が合いにくかったり、「見てみて」とばかりにお母さんの注意を引く反応が乏しかったりしたら、自閉症を疑う必要があるでしょう。
「自閉症」「自閉的傾向」「自閉症スペクトラム」「広汎性発達障害(PDD)」...。いろんな診断名がありますが、どれも本質は変わりません。社会性の障害(人と心を通わせることが苦手)とコミュニケーションの障害(ことばの欠如や遅れ、奇妙さ)、こだわりや常同行動(単調な反復行動)を特徴とする、恐ろしい障害なのです。放置すれば、将来の自立は非常に困難です。ABA早期集中療育の成果自閉症に対して、これまで様々な治療法が試みられてきました。しかしどれも障害を劇的に改善させるものではありませんでした。
しかし近年、米国で「ABA早期集中療育」という方法が開発され、自閉症の症状の改善に画期的な効果を上げています。中には自閉症の痕跡をほとんど留めないまでに回復する子どももいるのです。「自閉症に有効な治療法はない」というこれまでの常識は、北米ではすでに過去のものとなりつつあります。
この方法を開発したのは米UCLAのロバース博士(Dr. O.I. Lovaas)らの研究チームです。
ロバース博士が1987年に発表した論文によると、ロバース博士らは2-3歳の自閉症幼児19人に対して、ABAに基づく平均週40時間の1対1の療育を、2年以上にわたって施しました。前半は大学から派遣された学生セラピストが、親とともに家庭で療育を行い、後半はセラピストの付き添い付きで徐々に健常児の集団(プリスクール)に入れていきました。
その結果、子どもたちが小学校に入った時点で行われた追跡調査で、19人中9人(47%)が知的に正常になり、しかも付き添いなしで小学校普通学級に入学したことがわかったのです(治療前に知的に正常域だったのは2人です)。
一方、比較のために用意された二つのグループ(一つは週10時間未満のABAしか施さなかった19人、もう一つは全くABAを施さなかった21人)では、知的に正常域に入り、しかも付き添いなしで普通学級に入った子は40人中1人だけでした。
(ロバース博士らはこの方法を「早期集中行動介入(EIBI)」と呼んでいますが、ここでは「ABA早期集中療育」と呼びます。「ロバース法」と言われることもあります)
2005年には、ウィスコンシン州の研究グループが、ロバース博士の研究をモデルにして、2〜3歳半の自閉症児23人(IQ35-75)に平均30〜40時間のABA家庭療育を2年以上実施したところ、平均IQが51から76に増加し、11人(48%)が知的に正常域(IQ85以上)に達しました。彼らは「およそ平均的な学業成績を上げ、流暢に話し、友達と普通に遊んでいる」とのことです。ほかにも多くの研究で、ABA早期集中療育の効果が確かめられています。
1999年、ニューヨーク州保健省が発行した自閉症幼児のための診断・治療ガイドラインでは、週20時間以上の1対1のABA療育が、ほとんど唯一改善効果を実証されている方法として、推奨されました。その後ABAは全米に普及し、現在(2019年)では全米すべての州でABAを医療保障の対象とする州法が制定され、保護者の自己負担が大幅に軽減されています。またカナダでもほとんどの州でABAが公費の対象となっています。
つみきの会のABAホームセラピー
このように北米で高い効果を上げているABA早期療育ですが、日本ではまだまだ知られていません。
日本で早期療育と言えば、障害のある子どもたちを集めて、保育士さんたちが保育園とあまり変わらない集団保育を行なうのが主流です。しかしこの方法は、ABAと違って対照群を用いた厳密な研究で改善効果が実証されているわけではありません。感覚統合や作業療法、言語療法などもそうです。
そんな中、私たちつみきの会の親たちは、独自にABAを学び、会員同士で励まし合いながら、わが子にロバース法をモデルにしたABA家庭療育(ABAホームセラピー)を行っています。
ABAとはABAは日本名で「応用行動分析(Applied Behavior Analysis)」、別名「行動療法」といいます。伸ばしたい行動にはほめたり、ほうびを与えて伸ばし、抑えたい行動に対しては、ほうびを一切与えないことや、軽い不快を与えることによって抑える、ということを基本とする方法です。障害児療育の方法としては以前から定評があり、大学にもABAの研究者がたくさんいます。
ロバース博士のABA早期集中療育は、このABAを早期(2-4才)から集中的に(週20〜40時間)行う、というところに特徴があるのです。
ABAは親でもできるABAは、決してプロのセラピストでないと行えない、というものではありません。しっかりしたマニュアルがあれば、親でも行なうことができます。
親が自らセラピーを行うのは大変ですが、いいこともたくさんあります。セラピストは時々家庭を訪問するだけですが、親は1日中、子どもと生活を共にします。ですからいつでも都合の良い時にセラピーができるし、生活の中のいろんな機会をとらえて少しずつ教えることもできます。それが教えたことを定着させるために、一番いいことなのです。セラピスト任せでは、決して子どもは伸びません。
セラピーは1日1時間でも
本格的なABA早期集中療育は週20〜40時間、家庭療育を行います。1日あたり3〜6時間です。
しかしこれを親が1人で実行しようとすると、大変な負担になります。セラピーは時間数を稼げばいいと言うものではなく、中身の質が大切なのです。疲れていては、いい療育はできません。
ですからつみきの会では、時間数にこだわらず、1日30分でも1時間でもいいから、親が無理なく続けられる範囲で、家庭療育を行うように勧めています。
そのうえで経済的に余裕があれば、週に何度かセラピストに家庭に来てもらい、親の負担を一部肩代わりしてもらうのも、よい方法です。その場合、セラピストは決してプロである必要はなく、例えば近隣の大学にお願いして、障害児教育に興味のある学生さんにアルバイトとしてきてもらってもいいのです。その学生さんにつみきの会のテキストを読んでもらって、その通りにしてもらえば、それで立派なセラピストになれます。
つみきの会では、2008年4月から会員12家族を対象に、親御さんに毎日最低1時間の療育に取り組んでもらい、つみきの会のセラピストが週に1回訪問してセラピーとアドバイスを行う、という方法で、どの程度お子さんが進歩するか、という研究を行いました。その結果、一年間で発達指数が平均51から60へ上昇するなどの成果を上げることができました。中には一年間で発達指数が30ポイント以上上昇したお子さんもいます。
なぜ家庭療育なのかわが国では、個別療育と言うと、専門の療育機関に親が子供を連れて行き、そこで受けさせるものだと考えられています。
しかし自閉症の子どもたちは、ある環境で身につけたことを別の環境に応用すること(これを「般化」といいます)が苦手です。ですから療育機関でSTさんに何かを教えてもらっても、それだけでは家庭や幼稚園などの生活の場に般化できないのです。
ロバース博士も、最初は大学病院に子どもを入院させて、ABA治療を行なっていました。しかしそれでは退院後、子どもが教えたことを生活の中で発揮できず、数年で教えたことをすっかり忘れてしまうことがわかりました。
そこで、学生セラピストが子どもの家庭に出向いて、家庭でセラピーをし、親にもセラピーのやり方を身につけてもらうことにしました。
すると、子どもはセラピーで学んだことを即生活の中で生かせるので、どんどん進歩していきました。また学生によるセラピーが終了した後も、親がセラピーを続けたので、子どもは退行せず、さらに進歩を続けました。
ですから、セラピーを家庭で行う、ということ、そして親がセラピーを行なう、ということは、ABAセラピーを成功させる上で決定的に重要なことなのです。
幼児でないとだめなのかABA早期集中療育は、通常、2,3才の自閉症児を対象とします。ロバース博士らの長年の研究の結果、4,5才でのスタートより、2,3才でのスタートの方が、療育の効果が高いことがわかっています(ただし2才スタートと3才スタートで結果の違いは確認されていません)。
しかしそれは4,5才では遅すぎる、ということを意味するわけではありません。ロバース博士の初期の研究では4,5才の子どもも対象となっており、その中にも劇的に改善を遂げたお子さんがいます。ただ全体的に見て、年齢が低い方が余計伸びが大きいことがわかったので、その後、2,3才に対象を絞ることにしたのです。
ですから、4,5才でのスタートになっても、希望を捨てることはありません。
小学校に入ってからのスタートでは、さすがに劇的な改善はむずかしいかと思います。例えば小学校に入った段階で言葉が全くなく、発語のバラエティも乏しい、と言う場合は、たとえABA集中療育を行なっても、音声言語の獲得はかなりむずかしいでしょう。絵カードや手話による代替コミュニケーション手段を教える方が現実的だと思います。
しかし小学校に入ってからのスタートでも、指示に従うことや身辺自立、読み書き算数などを、ABAを使って教えることができます。ある程度言葉がある場合は、それを伸ばすこともできます。ABAは年齢を問わず、たとえ成人であっても、有効なのです。
自閉症でないとだめなのかABA早期集中療育は、自閉症とその近縁の障害(これを総称して「自閉症スペクトラム障害」とか「広汎性発達障害」といいます)を対象としています。ABA早期集中療育を単なる知的障害やダウン症などに適応した場合、どの程度の効果があるか、に関する研究は、まだほとんど行われていません。
しかしそれは自閉症が特に教育が難しく、通常の教育では改善が難しいから、ABAの研究が集中しているのだと考えられます。ABAは本来、自閉症など、特定の障害に特化した方法ではなく、どんな障害にも合わせられるのです。一部の自閉症幼児に見られるような劇的な改善は、他の障害では実現できないかも知れませんが、ABAはどんな障害を持ったお子さんに対しても、効果的な教育を提供できます。
私たちは親同士励ましあいながら、毎日、わが子の家庭療育に取り組んでいます。2000年に兵庫県明石市で、30人あまりの親たちで発足したこの会は、いま全国に10の支部を持ち、1100人の会員を持つまでに大きくなりました。
ABAは決して楽な方法ではありません。でも私たちには、「親としてわが子にできるだけのことをしてあげている」という充実感と誇りがあります。ABAを始めたら、もういつになるか分からないわが子の進歩を待たなくていいのです。動作の模倣、指示の理解、発語、衣服の着脱、おもちゃ遊びなどなど、あらゆることを少しずつ、スモールステップで教えていきます。そしてまた一つ、新しいことができたとき、子どもと喜びを分かち合うことができるのです。
皆さんもぜひ、私たちの仲間に加わってください。お待ちしています。
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