EIBI主要論文紹介

ABA早期集中療育(早期集中行動介入、EIBI)に関する主要論文を紹介します。

ロバース73年論文

Lovaas, O.I., Koegel, R., Simmons, J.Q. & Long, J.S., (1973) Some generalization and follow-up measures on autistic children in behavior therapy. Journal of Applied Behavior Analysis, 6, 131-166.

ロバース博士らの研究チームによるABA早期集中療育の初期の研究(1964-1969)がまとめられています。

ロバース博士は1964年、4人の自閉症児を大学病院に入院させ、実験的に一日8時間、週6~7日のABA集中療育を、1年2カ月にわたって施しました。治療の中心は、彼らにことばを教えることに置かれました。

そのうちの2人(パムとリッキー)は多少ことばがあり、あとの2人(ビリーとチャック)はことばがありませんでした。年齢は記載されていません。

治療の結果、4人とも適切な発語や遊びが増え、問題行動は減少しました。知能も治療前は全員測定不能でしたが、治療後はIQ35~60に達しました。

治療終了後、4人はもともといた州立病院に戻されました(当時は自閉症児を親から隔離するのが一般的だったのです)。州立病院のスタッフはABAを知らず、治療は継続されませんでした。2~4年後に行われた再検査で、4人は治療前の状態に戻ってしまっていることがわかりました。適切な発語や遊び行動は減り、自己刺激が急増していました。

この結果、(1)ABAを用いて自閉症児に適切なことばや遊びなどを教えることができること、(2)しかし治療を終了すると退行してしまうこと、がわかりました。

ロバース博士は、1965年以降も数人ずつ、計9人の自閉症児にABA集中療育を施しましたが、今度は親にABAのトレーニングを施し、大学での治療が終了しても、家庭で親が治療を継続できるようにしました。

また9人のうち後半の6人は、大学病院に入院させず、最初から通院および在宅治療を行いました。

この6人には最初のうち大学でセラピストが治療をしましたが、途中からもっぱら親が家庭でセラピーを行うことにし、セラピストは週1回家庭を訪問してアドバイスをするにとどめたのです。

最初のパムやリッキーら4人が、治療終了後、州立病院に入院した「収容組」であるのに対し、残り9人は大学での治療終了後、親が家庭で治療を続けた「在宅組」です。この「在宅組」9人は、「収容組」と違って、大学での治療終了後も退行が起こらず、適切な言葉や遊びが増加を続けることがわかりました。

この結果、(1)親はABAセラピストになれること、(2)親がセラピーを担当することによって、治療終了後の退行を防ぐことができること、がわかったのです。

ロバース87年論文

Lovaas, O.I., (1987) Behavioral treatment and normal educational and intellectual functioning in young autistic children. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 55, 1, 3-9.

ロバース博士が「早期集中行動介入(EIBI)」の劇的な効果を発表した記念すべき論文です。
ロバース博士は、73年論文で紹介した69年までの初期の研究のあと、より改善効果の高い治療を目指して、70年から新たな実験プロジェクト(幼児自閉症プロジェクト、YAP)を始めました。

これは(1)2-3才半の幼い自閉症児(IQ37以上)を対象とする、(2)学生セラピストを家庭に派遣し、週40時間のABA治療を2年以上継続する、(3)親をセラピストとしてトレーニングし、それ以外の子どもの起きている間中、ABA的に関わってもらう、というものです。両親には、片親が1年間仕事をせずに、子どもの療育に専念することを求めました。19人の自閉症児がこの実験グループに参加しました。

また比較のために、別の19人の自閉症児のグループ(比較グループ(1))を設け、彼らには週10時間未満の訪問セラピーしか施しませんでした。実験グループと比較グループ(1)への振り分けはランダムではなく、当初はすべてを実験グループに受け入れ、定員がいっぱいになった後に申し込んだ子どもや、大学から車で片道1時間以上のところに住んでいる子どもを、比較グループ(1)に振り分けました。

さらに同じ大学の別の研究グループが追跡調査をしていた自閉症児のグループ21人を比較グループ(2)としました。このグループはABA治療を全く施しませんでした。

IQ37未満の重度知的障害を伴う自閉症児はこのプロジェクトからは排除されました。これは重度の場合、自閉症なのか、単なる知的障害なのか、判別が難しいからでした。

実験グループは、初期の治療においてはもっぱら家庭で治療を行い、動作模倣や音声指示、音声模倣、適切な遊びスキル、身辺自立などを教えました。

治療の結果、2,3語文を話せるようになり、簡単な指示に従えるようになり、適切なおもちゃ遊びができ、おむつが取れるようになると、セラピストの付添い付きで、健常児の通うプレスクールに入れ、集団への適応(メインストリーム化)を目指しました。この段階に達した子どもは、徐々に家庭でのセラピー時間は減らしていき、小学校入学までに治療を終了しました。この段階に達しなかったお子さんには、週40時間のホームセラピーを継続しました。

子どもが6-7歳に達した時の再検査の結果、実験グループの子どもたちは平均IQが治療前の53から83へと30ポイント増加しました(87年論文には治療後のIQしか示されておらず、治療前の数値は93年論文から引用しました)。

また19人中9人(47%)が知的に正常域(IQ80以上)に達し(うち2人は当初からIQ80以上)、かつ自閉症の前歴を知らない学校当局者の手で、付き添いなしで小学校普通学級への入学を認められ、無事に1年次を終了していました。残り10人のうち、8人は軽度の遅れのある子のクラスに入り、2人が重度の遅れのある子のクラスに入りました。

一方、比較グループ(1)の19人の平均IQは治療前の46から治療後52へと微増にとどまりました。比較グループ(2)は治療開始前の平均IQのデータがないのですが、治療後は58でした。

比較グループ(1)19人のうち、6-7歳の再検査で知的に正常域に入り、かつ付き添いなしで普通学級への入学が認められた子どもは1人もいませんでした。軽度の遅れのある子どものクラスに8人、重度の遅れのある子どものクラスに11人が入学しました。

比較グループ(2)21人もほぼ同様で、付き添いなしで普通学級への入学を認められたのは1人。軽度の遅れクラスが10人、重度の遅れクラスが10人という結果でした。

この結果、軽度または中度の知的遅れのある自閉症児の約半数近くが、ABA早期療育の結果、劇的に改善する可能性があることが示されました。またその効果を出すためには、週10時間未満の療育では無理らしいこともわかりました。

マカーキン・スミス・ロバース93年論文

McEachin, J.J., Smith, T., & Lovaas, O.I., (1993) Long-term outcome for children with autism who received early intensive behavioral treatment. American Journal on Mental Retardation, 97. 4. 359-372.

87年論文の実験グループ19人と比較グループ(1)19人の追跡調査の結果です。
実験グループは平均年齢13歳(9~19歳)のときに再調査を行いました。その時の平均IQは85でした。6-7歳のとき普通学級に入っていた9人のうち、1人がその後、特殊学級に移行していました。しかしその代わりに、そのとき特殊学級にいた1人が小学校卒業後、普通学級に移行し、その後短大に進んだことがわかりました。

比較グループ(2)は、平均年齢10歳(6~14歳)のときに再調査を行いました。その時の平均IQは55でした。6-7歳での検査のあと、普通学級に移行した子どもは一人もおらず、全員が特殊学級にとどまったままでした。

サローズ&グロープナー2005年論文

Sallows, G.O., & Graupner, T.D., (2005) Intensive behavioral treatment for children with autism : four-year outcome and predictors. American Journal on Mental Retardation, 110,6, 417-438.

ロバース博士のABA早期集中療育の再現実験プロジェクトの一つ、ウィスコンシン州の研究グループによる報告です。

サローズらは2歳から3歳半の自閉症児23人(35≦IQ≦75)をクリニック主導グループ13人と親主導グループ10人にランダムに振り分けました。クリニック主導グループでは訓練を受けた数人のセラピストが交代で週平均39時間のセラピーを行い、シニアセラピストが週3回訪問して治療チームをまとめました。親主導グループでは訓練を受けたセラピストが週平均32時間のセラピーを行いましたが、シニアセラピストの指導は月2回だけで、代わりに親がセラピストたちの調整役をしました。

4年間の治療の前半はもっぱら家庭で治療を行い、後半は徐々に健常児の集団の中に付添い付きで入れていきました。その分、家庭療育の時間は減らしていき、不要と判断された場合は治療を終了しました。

4年後の再検査で、クリニック主導グループ13人は、平均IQが51から73に増加し、うち5人(38%)が知的に正常域(IQ85以上)に達しました。

一方、親主導グループ10人は平均IQが52から79に達し、うち6人(60%)が知的に正常域に達しました。つまり親主導グループもクリニック主導グループに匹敵するか、むしろ凌駕する成績を上げました。

両方のグループを合計すると、23人の子どもの平均IQは51から76へと増加し、23人中11人(48%)が知的に正常域に達しています。この11人はヴァインラント社会適応度尺度でも社会性尺度が62から88とほぼ正常域に達しています。11人のうち3人は小学校入学後、しばらく付き添いが付きましたが、その後不要になりました。平均7.7歳の時点での追跡調査では、11人はいずれも小学校1~2年の普通学級で付き添いなしでうまくやっていることがわかりました。かれらは「およそ平均的な学業成績を上げ、流暢にしゃべり、友達と普通に遊んでいる」とのことです。

残り12人の子どもは健常児に追いつくことはできませんでしたが、12人中10人はことばを獲得し、基本的な要求を言葉で伝えることができるようになりました。3分の2の子どもが簡単な文章が読めるようになりました。また大部分の子どもは他の人と関わり、子どもたちと遊ぶ能力を身につけました。12人中4人が付き添い付きで普通学級に在籍し、6人が特殊学級+交流学級、2人が特殊学校に入学した、とのことです。