ことばの遅れ
の原因

わが子のことばの遅れが気になっている親御さんは多いと思います。ことばの遅れとその原因について、瀬川記念小児神経学クリニック理事長の星野恭子先生にお聞きしました。

どんなときに、「ことばの遅れ」を心配しなければいけないのでしょうか。

 「ことばの遅れ」の意味はいくつかあると思います。例えば、単語が出ないのか、単語は出ているが、二語文がでていないのか、やりとりが出来ないのか、等です。これは年齢によっても異なりますね。言葉の発達には、年齢によってある程度目安があります。例えば、1歳半健診で単語が5個程度、2歳で2語文、「これ何?」と言う、3歳になりますと自分の名前、年齢、大小がわかる等、4歳は過去と未来がわかる、5歳は物の用途を言える、しりとり、等です。健診などで、この基準に概ね入っていれば、大丈夫かなという目安になります。
しかし、この項では「単語が出ない、発語の遅れ」を心配することにします。
ママ、パパ、わんわん、まんま、等の単語は、1歳頃から出ます。しかし、その前に、喃語が出ているはずです。突然、赤ちゃんが「ママ」と話すわけではないです。心配したらキリがないのですが「言葉の遅れ」の目安としては、1歳半健診で、単語が5個程度出ていない時に、心配をしましょう。

ことばの遅れの原因として、どんなものが考えられますか。

 前の質問に答えたように、どの年齢でどの言葉が遅れているのか、により、原因は異なります。知的な問題があるのか、自閉スペクトラム症があるのか、言語の能力に問題がある学習障害があるのか。
 頻度として多いのは、自閉スペクトラム症と知的障害だと思います。私達、小児神経の医師は、「なぜそのような状態になったのか」も原因として考えます。例えば、脳の中に問題がないか画像検査をする、脳波の異常がないかどうか、採血をして染色体や代謝異常がないか、等です。治療ができる疾患があれば、診断をつけて治療することも大切です。
 自閉スペクトラム症を考えるときに、私は、次のようにご両親にお話しをすることがあります。
「例えば私達が、外国で買い物をしたいと思った場合、その国の言葉を学ぼうと思い、頑張って覚えたりします。話す時には、身振り手振り、相手の目を見て伝わるように頑張ります。自閉スペクトラム症の子ども達はそもそもそこが欠如しています。伝えたい気持ちが少ないのです。まず子どもさんが、一番大好きなご両親に何かを伝えたい、と思う気持ちを育ててください」と。
 言葉の遅れの一番の原因は、「伝えたい気持ちが育っていない」だと思います。

ことばの遅れが心配な時、親はどんなことに気を付けたらよいでしょうか。

 前の質問でお答えした通り、「伝えたい気持ちを育てるにはどうしたらいいか」が大事な点になると思います。「伝えたい気持ち」は、「パパとママが大好き」から始まると思います。ところが、こちらが一生けん命関わっても子どもさんの反応が少ないので、諦めたくなるかもしれません。しかし、「一緒にいて楽しい」気持ちは必ず伝わり、子どもさんの反応が変わってきます。「親子で楽しい」という時間を作ってください。言葉はなくてもかまいません。こちょこちょ、よーいどん遊びなど、なんでもよいです。親御さんが気を付けることは、「一緒に居て楽しかったら、伝えたいと思ってくる、そのうち言葉でてくるかも」と思うことだと思います。

効果的な療育法があれば、教えてください。

 言葉の遅れの療育方法は、まずは、一緒に遊ぶことだと思います。外来でも、「ひらがなは読めるが会話がない」とか「アルファベットは知っているが、視線は合わない」等の話を聞きます。
 言葉は、「喋りたい」と思って、初めて「言葉」になりますので、どうしたら喋りたいと思うか、ですよね。ただ、ご両親はどうしたら楽しく過ごせるかわからない、と途方に暮れている方も多いかと思います。そこを引き出してくれるのは、色々なやり方はあるかと思いますが、作業療法が出来ればいいですね。何かを伝える準備ができたら言語療法になるかもしれません。さらに行動療法(ABA)で、「声を出したら褒められた」ということがわかると、また声を出してみよう、となり、伝えたい、となり、単語を覚えるようになると思います。
 当院では、藤坂先生、そしてセラピストの先生方に、毎月ABAのセラピーをお願いしています。どうしてよいのかわからなかったご両親が、関わり方がわかるようになり、言葉だけでなく認知も大変効果をあげています。関わり方の理解は本当に大切だと思います。
 療育とは異なりますが、言葉は前頭葉が司っています。その前頭葉を育てるために重要なのは、早寝早起き、規則正しい睡眠覚醒リズムです。しっかり目覚めてしっかり起きて、しっかり遊んで深い睡眠となると、神経がさらに発達し伸びてきます。また、栄養面も重要です。微量元素、鉄、亜鉛の摂取も重要と考えています。

ご参考になればと思います。

日本小児神経学会専門医
昌仁醫修会瀬川記念小児神経学クリニック理事長
星野恭子