ミニマガつみき

あれこれ

第16号 2007.06.28:「親は療育者になれるか」

<あれこれ>
今日のテーマ「親は治療者になれるか」

親をABAの治療者(セラピスト)として訓練し、わが子の療育にあたってもらおう、という試みは、歴史が古く、すでに1960年代から行われています。つみきBOOK で紹介したロヴァース博士の1973年論文はその代表的な研究です。

70 年代から80年代前半にかけて米国で発表された研究で、親をディスクリートトライアル(不連続試行)法による本格的な個別療育のセラピストとして訓練することは十分可能だ、ということが明らかにされました。しかも専門家だけが治療を担当するのと比べて、親も積極的に治療に参加した方が、治療の結果が日常生活に般化されやすく、治療効果も維持されやすい、ということがわかったのです。

日本でも70年代には、梅津耕作先生らが、親にディスクリート・トライアル(以下、DT法と略します)を指導していました。しかし80年代になると、DT法は効果はあるが、膨大な手間がかかる割に日常生活に般化しない、という、私に言わせれば誤解が広まり、たくさんの研究者がDT法を半ば放棄して、フリーオペラント法などの手法に移っていったのです。それとともにDT法を親に指導する、という試みも廃れていきました。

ところが90年代に入ると、87年にロヴァース博士が発表した早期集中行動介入(EIBI)の成果がようやく日本にも伝わり始め、上智大学(現なかよしキッズステーション)の中野先生たちのグループがDT法の親指導に改めて取り組み始めます。
さらに2000年代に入ると、このつみきの会が生まれて、DT型の家庭療育に取組む親が一気に増えました。

私はこの会を始めてから、たくさんの親御さんにDT法をご指導してきました。その過程で、専門家に負けないほど立派にディスクリートトライアルを行なうことの出来る親御さんをたくさん見てきました(もっとも今の日本には、DT法がきちんとできる専門家は少ないようですが)。

もちろんすべての親が上手になれるわけではなく、上手下手には個人差があります。でも、私の持論では、自動車免許の教習くらいの真剣さで学べば、大部分の親はDT法を十分にマスターできると思います。

ただ、親が一人で、あるいは配偶者や学生セラピストの手を借りて、中心となって本格的な家庭療育を行なうには、たんにDT法をマスターするだけでは足りません。毎日、こつこつ続けられるだけの精神力が必要だし、わが子にあったプログラムを立案修正する知的能力も必要になります。誰もがその両方を兼ね備えているわけではありません。

一つの解決策は、週に何度か、あるいは毎日、経験のあるセラピストさんに来てもらって、セラピーをしてもらうことです。そうすれば、確かに経済力が続く限りは続けられるでしょう。 しかしこの場合の落とし穴は、セラピストさんが来てくれることで気がゆるんでしまい、つい自分ではセラピーをやらなくなってしまう、ということです。親が部分的にでもセラピーを担当しなければ、セラピーで獲得したスキルを日常生活に般化させ、長期的に維持することはむずかしくなります。ですから、セラピストに来てもらう場合には、セラピストに任せっきりにせずに、自分も少しの時間でもいいですから、セラピーを続けるようにしましょう。

もう一つの方法は、専門家の定期的な指導を受けることです。親中心の家庭療育に理解のある専門家は日本では非常に少ないのですが(だから私のようなものがそのまねごとをしています)、理解のある専門家が、定期的に適格なアドバイスをくれて、プログラムも提案してくれれば、多くの親が、たとえ単独でも、長期間、家庭療育を続けていけると思います。 ただいずれにしても、1日数時間のセラピーを、たった一人で毎日続けていると、いつかは限界が来ます。私の印象では、人によっても違いますが、半年からせいぜい3年が限界かな、と思います(私は半年組でした)。

しかしそれでいいのです。早期介入は1,2年集中的に行なえば、かなりの結果を出せます。あとはペースをゆるめて、集団生活への適合に力点を移し、家庭での療育はぐっと時間を減らせばいいと思います。

セラピーに疲れて、くじけそうになっている皆さん、どうかもう一度、気合いを入れ直して、頑張って下さい。セラピーはしんどいですが、わが子に新しいことを教えることが出来たときの喜びは格別です。少なくとも後になって、もっとあのとき頑張ってやればよかった、と後悔しなくて済みます。

たった一人でセラピーを行なうことに不安を感じている皆さん、どうか自信を持って下さい。専門家も、近年はますます治療者としての親の役割を見直しつつあります。自信がなくても、親がやるしかないのが現状です。いくら名人の先生でも、月に1回子どもを見るだけでは、何にもできません。毎日子どもの身近にいることの出来る親が、下手でもこつこつと毎日続けた方が、よほど治療効果が上がるのです。

藤坂