ミニマガつみき

療育のコツ・子育てのこつ

第2号 2007.03.08:
「いつでもどんなときでも」

<療育のコツ・子育てのこつ>
今日のテーマ「いつもどんなときでも」

つみきの会に入会された親御さんは、みなABA療育によってお子さんをよくしたい、という希望を持って入会されたことと思います。
ではどうやったら、わが子を伸ばしていけるのでしょうか。それにはいくつか、ポイントがあります。

まず第一は、できるだけ多くの時間、できれば子どもが起きている間中ずっと、周囲のすべての人間が、ABA的に関わる、ということです。

ABA は、一日15分、椅子に座らせてちょっとワークをやったらそれでおしまい、というものではありません。デスクでの学習時間を増やすことはもちろんですが、それだけでなく、デスクで教えたことは、すぐに日常生活で応用させなければいけません。

例えばセラピーで、お名前を呼んで手を挙げることを教えたとしましょう。そうしたら、すぐにリビングや寝室や公園やスーパーでも、同じように名前を呼んで手を挙げさせます。できなければ、できるようになるまで、毎日少しずつ訓練します。やり方は家庭でのセラピーと同じ、プロンプトと強化です。

問題行動も、一日のあらゆる時間、子どもに関わるすべての大人が、同じABA的な対応を取らなければ、なかなか改善しません。

ですから、少なくともABA療育の初めの半年から一年は、できるだけ通園施設や保育園などに通わず、家庭で親やセラピストが、ぴったりそばについて、ABA的に関わってあげてほしいのです。

私が個人的に知っている会員さんによく見られるパターンは、地元の自治体の運営している通園施設に、平日、毎日通い、午後帰ってきてから、30分から1時間程度、デスクでつみきBOOKなどの課題をする、というものです。それ以上やろうとしても、お兄ちゃんや妹さんが学校や保育園から帰ってくれば、もうセラピーどころではなくなります。

しかしこれでは、大した改善は望めません。 まず日本の通園施設のほとんどは、子どもに一対一で何かを教えようとしないし、問題行動にも、ABA的に関わろうとはしません。むしろ逆に問題行動に対して注目という 強化子を与えてしまいます。
保育園も同じです。健常児の集団の中に入れればそれだけで改善するほど、自閉症は生やさしい障害ではありません。

ではどうしたらいいか。思い切って通園施設や保育園を一ヶ月休んで、子どもが元気な午前中に、一対一の療育に取り組んでみましょう。それでお母さんが精神的に持たなかったり、お子さんに一向に改善が見られないようなら、また通い始めたらいいのです。

逆に、確かな手応えを感じたら、思い切って長期休園ないし退園して、半年から一年間、家庭でじっくりABA療育に取り組みましょう。
集団には、それから戻してやってもちっとも遅くないのです。むしろ家庭で動作模倣や音声指示などをしっかり身につけることによって、集団の中でも見違えるほどうまくやっていけるようになります。

私と妻は、ABAを知ったとき、そのとき通っていた保健センターの親子教室をきっぱりやめました(これは家内の思いきりのよさの現れです)。そのとき教室の先生は、「綾ちゃんが地域で育つことをお母さんは考えておられないのでしょうか」とおっしゃいました。「家庭に閉じこめてどうするつもりか」ということです。

でも、いまはどうでしょう。あのとき思い切って家庭療育に専念したおかげで(と私たちは信じています)、娘は小学校5年生になった今でも、大きな問題行動もなく、親の付添付きですが、普通学級で楽しく学ぶことができています。むしろ誰よりも、「地域で育つ」ことができたのです。

午前中のいい時間を確保できたら、できれば一日に3時間かそれ以上(例えば午前2時間、午後1時間)、一対一のABA療育に取り組みましょう。と言っても、すべてを親が引き受ける必要はありません。他の家族や、友人、アルバイトの学生、ヘルパーさんなどにセラピストになってもらって、負担を一部肩代わりしてもらえばいいのです。

でも丸投げはよくありません。子どもの状態を把握し、セラピーの結果を日常に生かすために、少なくとも一日一時間は、親(母親か父親のどちらか、できれば両方)が自らセラピストとなって、一対一の療育を行うことをお勧めします。共働きの場合は、どちらかが仕事を辞めるか、休職する必要があります。

最初はとても辛いことです。でも、楽をして子どもがよくなるはずがありません。自閉症児は、60年前は「教育不能」と考えられていました。その自閉症のわが子に、社会生活に必要なあらゆることを教えよう、というのですから、死にものぐるいになって、不退転の覚悟で取り組む必要があるはずです。

「わが子よ、声を聞かせて」の著者、キャサリン・モーリスさんは、ABA療育を始めてから、生活すべてがABAになった、それまでのすべての友人を失った、と書いていらっしゃいます。

それは私と妻も経験したことです。家内は好きな英語の勉強を断念し、ドラマも見なくなりました。私は仕事以外のすべての時間を、ABAセラピーやその準備・勉強に割きました。周囲とのつきあいはほとんどなくなりました。

でも、やってみればおわかりになると思いますが、ABAはそうやって本腰を入れて取り組めば、それなりに努力が報いられる方法なのです。

ABA をやっていれば、いつ出るかわからない言葉をいつまでも待ち続ける、という必要はありません。成功するかどうかは別として、言葉の獲得を目指して、自分の手で一歩一歩前進していくことができます。
「なすべきことがわかっていて、それにいま取り組んでいる」と実感することは、とても精神的にいいことなのです。これは多くの会員さんが同意して下さると思います。

先輩面をして偉そうなことばかりを書きました。どうか気分を悪くなさらず、参考になりそうな部分を取捨選択して、お子さんの療育に生かして下さい。

藤坂