ABAミニ知識
第24号 2007.09.06:「強化スケジュール:FRとVR」
<ABAミニ講座>
今日のテーマ「強化スケジュール:FRとVR」
強化スケジュールとは、強化の間引き方のパターンのことです。
まず「連続強化」とは、正解するたびに毎回強化することをいいます。新しいことをマスターさせるときは、よくこれを使います。定例会の個別指導は短期決戦なので、私はいつもこの「連続強化」をしています。
それに対して、強化子を間引いて飛び飛びに強化することを「間欠強化」とか「部分強化」と言います。すでにマスターした行動を維持させるときはこの間欠強化を行ないます。例えば、動作模倣の復習で、5つの動作を途中一度もほめないで次々にやらせて、やり終わったらほめたり、ごほうびを与えたりする、というのがこの方法です。
実際のセラピーは長丁場だし、復習も多いので、この間欠強化が多くなります。連続強化だと強化子の与えすぎになって、効き目が弱くなるからです。
問題はこの間欠強化のときの間引き方のパターンで、これにいろいろ名前が付いています。
まず定比率強化スケジュール、というのがあって、FR(fixed ratio)と表わします。これは何回かに1回、定期的に強化することです。
例えば5回に1回強化するのなら、FR5と表わします。連続強化ならFR1です。
私は今日も道頓堀の発達相談で、助手のMさんに「強化は2回に1回にして」などと指示を出していましたが、これを「FR2にして!」というと、かっこよくていいかもしれません。
次に変比率強化スケジュール、というのがあって、これは定期的に強化するのではなく、不定期に強化することを言います。略号はVR(variable ratio)です。
例えば、時には3回に1回、時には7回に1回、しかし平均すると5回に1回は強化している、というとき、VR5と表わします。
変比率(VR)の典型は、パチンコです。パチンコをしているとき、フィーバーがいつ来るかは、お客にはわかりません。しかし経営者側は、だいたい平均して何個玉を使ったらフィーバーが来るか、台ごとに計算しているはずです。 あるパチンコ台が、平均300玉に一度、フィーバーが起こるようになっている、としましょう。それをABA的に表現すると、「そのパチンコ台は、VR300の強化スケジュールを採用している」ということになります。
このFRとVRの区別は、結構重要です。なぜならFRよりVRの方が、「消去抵抗」が大きいことが分かっているからです。
消去抵抗とは何か、というと、強化をやめたときに、その行動がどのくらいの期間、強化なしで維持されるか、ということです。強化されなくても行動が維持される期間が長いことを、「消去抵抗が大きい」といいます。逆に強化をやめた途端にその行動が起こらなくなってしまったら、「消去抵抗が小さかった」ということになります。
FRとVRではVRの方が消去抵抗が大きい、というのは、簡単な言葉で言い換えると、「律儀に定期的に強化するより、気まぐれに不定期に強化した方が、いざ強化をやめたときに、行動が長期間維持されやすい」ということです。これはちょっと考えてみればわかります。
例えば、子どもに対して、FR5、つまり5回に1回はごほうびを与えていたのが、急にごほうびがゼロになったとします。子どもの方はだいたいこのくらいのタイミングで強化子がもらえるなあ、と思っているはずですから、そのタイミングで強化子がもらえなくなると、急速にその行動をやらなくなるはずです。
それに対して、子どもにVR5、つまり平均して5回に1回だけど、時には連続3回強化されるし、時には20回待っても強化がない、というやり方で強化していると、ごほうびをゼロにしても、子どもは長い間気がつかずに、「いつかはごほうびがもらえるかも」と思って、その行動をやり続けるでしょう。
問題行動を消去しようと思っても、なかなかなくならないのは、私たちが時々不定期にうっかり強化してしまっているからです。つまり私たちは問題行動をVRスケジュールで強化してしまっているのです。
逆に消去抵抗が一番小さいのは、連続強化、つまりFR1の強化スケジュールです。それはそうでしょう。それまで毎回強化されていたのが、急に強化されなくなったら、すぐにあきらめてやめてしまうはずです。
ですから、問題行動を消去するときは、中途半端なことはせず、消去を始める直前までふんだんに強化しておいて、ある時から一斉に、一気に、徹底して無視した方が、消去に成功しやすいはずです。
逆によい行動を強化なしで自発して欲しいときは、日頃からVRを心がけます。つまりよい行動を教えることができたら、それをだんだん、気まぐれに、ほめたりほめなかったりした方がいいのです。律儀に毎回ほめていると、ほめる人がいないところでは、全然自発しない、ということになります。
セラピー中にほうびを間引くときも、5試行に1回、とか10試行に1回、ときっちり決めておくのではなく、ある時は2回に1回、あるときは10回に1回、と気まぐれに間引いた方が、子どもの反応はよくなるはずです。つまり「間引くならFRよりもVR」ということです。
というのは、FRの場合、一度強化子をもらうと、次はしばらくもらえない、ということがわかっているので、尐し中だるみが生じるのに対して、VRの場合は一度強化子をもらっても、次にまたすぐもらえるチャンスがあるので、頑張れるのです。
トークンボードを使うと、つい5回に1回、あるいは10回に1回、といったFR強化スケジュールになりがちです。ですからたまにはトークンボードを横に置いておいて、トークンに頼らず、気まぐれに間引きながらセラピーをしてみましょう。
<綾ちゃんニュース>
「綾ちゃん、お腹の風邪になる」
綾ちゃんは、8月後半に入って、お腹の風邪をもらってきたらしく、急に熱が高くなり、下痢をするようになりました。
最初の日は39度の熱が出てしんどそうだったのですが、それでも夜になると、クスリのせいで尐し楽になったのか、自分で洗濯かごを出してきて、腹筋をしました。さすがに疲れていたのか、いつもは125回やるところを、25回しかしませんでしたが。
それを見ていたお父さんは、「木口小平は死んでもラッパを離しませんでした」という古いセリフを思い出しました(古すぎ?)。
藤坂