療育のコツ・子育てのこつ
第25号 2007.09.13:「大人が主導権を握る」
<療育のコツ、子育てのこつ>
今日のテーマ「大人が主導権を握る」
この点に関しては、ABAの中にも大きく分けて二つの考えがあります。
一つは「現代派」で、彼らは早いうちから子どもの自主性を尊重して、大人が一方的に主導権を握るのではなく、子どもにも時々主導権を握らせることで、子どものやる気を引き出した方がよい、と考えています。
もう一つがロヴァース博士に代表される「古典派」で、こちらは始めのうち、大人が絶対的な主導権を握ることを重視します。大人主導のセラピーで子どもがある程度伸びてきてから、初めて徐々に子どもの自主性を認めていきます。
私はロヴァース博士の本を読んでABAを学んだので、古典派の考えに馴染んでいます。またいろんなお子さんの指導を経験して、やはり多くの場合、この「初期において大人が絶対の主導権を握る」ということが、とても大切だ、と感じています。
例えば、いろんな家庭を訪問すると、セラピー中、お母さん(あるいはセラピスト)がいいと言っていないのに勝手に席を立つお子さんがたくさんいます。
もちろん療育の最初期にはそれでいいのですが、ある程度軌道に乗ってくると、効率が大切になってくるので、少なくとも数分間は席にすわらせたままでセラピーを続けることが必要になってきます。
また席を立たせて自由にさせる、ということも大切な強化子なので、有効に使った方がいいのです。
ですからセラピー中に席を立とうとしたら、押しとどめていったん席に戻させて、少なくともあと1,2試行続けて、プロンプトしてでも正反応を引き出してから、そのごほうびとして立たせるべきだと思います。
「いつ休憩にするかは、お母さんが決める」のです。
そうすることによって、子どもは大人のことをもっと尊敬するようになります。大人の許可を得ようとして、もっと真剣にセラピーに取り組むようになります。その真剣さが、とても大切なのです。
その代わり、いつまでも席に座らせておくのではなく、上手にできたときはパッと立たせてあげることが大切です。着席時間は2,3才のうちはだいたい5分を目安にして、10分も20分も座らせたままにしておくべきではありません。
その他の強化子の与え方も同じことです。ご家庭を訪問したり、定例会で個別指導をすると、まだ指示に答えていないうちから、次の強化子はこれがほしい、と言わんばかりにお目当ての強化子の方に手を伸ばして、ろくに教材を見ていない子どもがいます。
そのときに、つい釣られて子どもの指さす強化子の方に手を伸ばしたりすると、子どものリクエスト行動をどんどん強化してしまい、だんだんセラピーどころではなくなってしまいます。
そうならないように、子どもが強化子の方を指さしたり、「ワーワー」と声を上げても、一切無視するようにします。そしてこちらがあらかじめ選んでおいた強化子を与えます。
つまり「いつ、どんなごほうびをあげるかは、お母さんが決める」のです。
ただ、子どもの意向を全く無視しろ、と言っているのではありません。子どもが何をほしがっているかを確かめるため、指示を出す前に二つか三つの強化子の中から、どれがいいか選ばせる、というのも、やる気を引き出すにはいい方法です。
しかしこれをいつもやっていると、強化子を見せないと課題をしない子になってしまう危険があります。やはり基本的には強化子は「後出し」であるべきでしょう。
大人が与えようとする強化子が気に入らないで、欲しい強化子の方を指さす行動も、まずは無視して、指示を出し、子どもが正解したら、あらかじめ決めておいた別の強化子を与えます。
子どもがそれを受けとろうとしない場合は、何も与えずにほめるだけにします。
そして、あと1,2試行行なってから、初めて子どもがほしがっていた強化子を与えるのです。
このように大人が主導権を握って、子どもに「服従」を強いるのは、子どもの尊厳を傷つけることだ、と思われる方もいるでしょう。
でもその子どもの能力を引き出して、伸ばしていってあげるためには、どうしても必要なステップなのです。その結果、子どもがいろんなことをどんどん学んでいってくれるようになったら、少しずつ子どもに自由を認めてあげられるようになります。それまでの辛抱です。
藤坂