ABAミニ知識
第28号 2007.10.04:「シェイピング」
<ABAミニ講座>
今日のテーマ「シェイピング」
「シェイピング」は、ABAで何か新しい行動を教えるときの大切なテクニックの1つで、簡単に言うと「少しずつその行動を形成していく」ということです。
こういうと、「なんだ。スモールステップのことか。それなら知ってるわ」と思われるかもしれませんが、シェイピングにはもう少し深~い意味があります。
私たちは、子どもに何かを教えるとき、たいていプロンプト、つまり手助けやヒントを使いますね。
例えば、「椅子に座る」という行動を教えるとき、私たちは普通、「すわって」と言いながら、子どもの手を引いてきたり、椅子の座板をポンポンたたいたり、体を手で持って押し下げたりして、椅子に座らせます。これらは皆プロンプトです。指示を出した後、直ちにプロンプトして正解させ、強化する。これが発達障害児に何かを教えるとき、一番すぐれた、効率的な方法です。
しかし何かの理由で、このプロンプトが使えないとしましょう。例えば皆さんは大学生で、教授から、「指示と強化以外、何もしてはいけない、プロンプトは一切禁止」と言われたとします。そんなとき、どうやって、子どもに椅子に座ることを教えたらいいでしょう。
「椅子に座るのを待っていたらいい?」
そうですね。もしその子どもが、時々椅子に座ってくれるのなら、自発的な行動を待って、それが起こったときにすかさず強化すればいいでしょう。しかしそのお子さんは、待っていても全然椅子に座ってくれないとします。
「椅子の前にテーブルを置いて、そこにお菓子やおもちゃをおいておけばいい?」 それもいい方法です。
しかしそれはここで禁止されているプロンプトにあたります。
では正解は何か、というと、このお子さんは待っていても椅子に座ってくれないので、せめて椅子に少しでも近づいたときに、強化します。例えば、その子を観察していたら、平均して1分間に一度は、その椅子から3m以内に近づくとします。そしたら、子どもが3m以内に近づいたときだけ、ごほうびを与えるのです。
ある行動は、その直後に強化されるとだんだん頻繁に繰返されるようになります。その子ども自身が、何が強化されているか気づいている必要は必ずしもありません。その子も、何度も強化されているうちに、いつの間にか、椅子から3m以内にいることが多くなってくるでしょう。
そうすると、以前は滅多になかった、「椅子から1m以内に近づく」という行動が起こる頻度も増してきます。そこで教える側の私たちも、目標を引き上げて、子どもが椅子から1m以内に近づいたときだけ、お菓子をあげたりして強化することにするのです。もう椅子から1m以上離れたときは、たとえ3m以内にいても強化しません。
すると子どもは、今度は椅子から1m以内でうろうろすることが増えてくるはずです。時には、椅子に体が触れることもあるでしょう。
そしたら今度は、さらに目標を引き上げて、椅子に体が触れたときだけ強化することにするのです。
すると今度は椅子に体が触れることが増えてきます。時には椅子に座ってしまうかもしれません。そこで最後にようやく、椅子に座ることを目標に掲げ、その行動が起こったときだけ、つまり椅子に座ったときだけ、強化するようにするのです。
このように、典型的なシェイピングには、次のような特徴があります。
①プロンプトが使えない状況で用いる
②待っていても、子どもは目指す行動を自発しない
③そこで、とりあえず目標を低く設定して、その行動を自発したら強化する。
④その行動が増えるのを待って、徐々に目標を引き上げていく
わかりましたか?
純粋なシェイピングはこういうことですが、現実場面では、全くプロンプトできない、ということはまずないので、たいていはプロンプトとシェイピングを併用します。
例えば、音声模倣はシェイピングを用いる典型的な例です。動作模倣なら、手を取ってプロンプトできますが、声を出すことをプロンプトするのはむずかしいですから。
そこで、最初はとにかく子どもが自発的に発声すれば、それをすべて強化するようにします。そうすると、徐々に発声が増えてきます。 ただ、ここでプロンプトしていけない、という法はないので、子どもの発声を促すため、くすぐったり、なでたり、お菓子を見せたりします。
次に大人が何か発声した後、5秒以内に子どもが何か発声したときだけ、たとえ大人の発声と似ていなくても強化します。
そうすると、徐々に大人の発声から5秒以内の発声が増えてきます。ここでも、プロンプトできればそうします。
次は大人の発声から5秒以内の発声のうち、少しでも大人の発声に似た発声を強化します。ここでも、例えば大きな口を開けて「ア」といい、子どもの動作模倣を促して、「ア」と言わせたりします。これもプロンプトです。
こうして、音声模倣訓練では、プロンプトとシェイピングの両方を組み合わせて、目標の音を作っていくのです。
このように、シェイピングを純粋な形で単独に使うことは少ないのですが、子どもに何かを教えるとき、この技法はいろんなところに少しずつ顔を出します。
例えば、小学校3年生になると、リコーダーを子どもに教えます。これは指で穴をふさぐのがとてもむずかしくて、ちょっとでも隙間があいていたら、すぐに別の音になってしまいます。
そこで、指を持って、なんとか完全にふさがせようとするのですが、なかなかうまく行きません。
そんなとき、何度もだめ出ししてしまうと、子どもは嫌になって、逃げてしまいます。
そこで、いらつく気持ちを抑えて、空気が漏れていても、一応ふさぐべき穴に指が当たってれば、どんなに変な音を出していても、「そうだよ!」「いいよ!」と強化してあげます。
そうすると、指を穴に当てる、という行動が徐々に定着していきます。すると、時には何かの具合で、指がうまく穴を完全にふさいで、きれいな音が出ることもあります。
そうしたら、お子さんをもっと熱烈にほめてあげるようにします。
この方が、いきなり最終的な目標を達成しようと焦るよりも、よっぽどうまく行くのです。
シェイピングの深い意味、おわかりいただけましたでしょうか。
藤坂