療育のコツ・子育てのこつ
第29号 2007.10.11:「よけいなヒントを与えない」
<療育のコツ、子育てのこつ>
今日のテーマ「よけいなヒントを与えない」
ABAセラピーで、何か2つ以上の指示や概念の区別を教えようとするとき、重々気をつけなければいけないのが、顔の表情や仕草で、子どもに無意識のうちにヒントを出さないようにしなければいけない、ということです。
私も経験があるのですが、例えば色の名前を教えているのだけど、1週間やってもなかなかランダムローテーションに成功しない、今日は何とか成功させたい、というとき、ついそれが表情に出てしまいます。子どもが正解をさわろうとすると口がついほころんで「にまっ」という顔となり、不正解をさわろうとすると、「あっ」という顔になってしまうのです。
子どもは、いろんなことが分からないくせに、なぜかそういうことにはすごく敏感で、大人の表情から答えを探ろうとします。親の口元がゆるむと、「あ、これは合ってるな」というわけで、そのままさわってしまうし、険しい顔をすると、「これはちがうんだな」と思って、もう一方にスイッチします。
こちらがすぐにそれに気付けばいいのですが、自分がヒントを出しているときに、何週間もときには何ヶ月もそれに気付かないことがあります。そういうときは本当に悲劇です。
親はやっと難しいハードルをクリアした、と思って喜んでいるのに、それが幻だったとわかって、どん底に落とされます。子どもは子どもで、いい解決策を見つけた、と思っていたのに、それを否定されて、混乱してしまいます。
他にも、教える側がついヒントを出してしまう例は、たくさん挙げることができます。
①2つ以上の教材を選択させるとき、つい正解の方をちらっと見てしまう
②音声指示のとき、頭を触らせたいときに、つい子どもの頭の方を見てしまう。拍手のときは、下を見てしまう。
③マッチングの時、重ねさせたい方の物の近くで、そのものを渡してしまう。
④子どもが間違えそうになったとき、つい腕がぴくっと動いてしまう
⑤子どもが正解しそうになったとき、つい身体がうなづくように前に傾いてしまう。
皆さんも覚えがないでしょうか。 私の妻は、口の動きを読まれてしまったことがあります。確か、人の名前を教える課題で、妻が自分の胸を指さして「だれ?」と聞いたら、「ママ」、娘の胸を指さして「だれ?」と聞いたら、「あや」と答える、という課題でした。 妻がこの課題をしばらく教えていて、「できたよ!」とすごく誇らしげに報告に来ました。私はまだこの課題は娘には早すぎると思っていたので、半信半疑な気持ちで、見に行きました。
すると、妻は自分の胸を指さしたとき、「だれ?」と言ってから、ちょうど「ママ」と言いかけるように口をつむっていました。逆に娘を指さすときは、「あや」と言いかけるように口をあけていました。
妻はそれに全く気付いていませんでしたが、娘はそれを見て、答えを選んでいたのです。その証拠に、妻に口を隠すようにアドバイスすると、途端に娘はめちゃくちゃに答えるようになりました。
この時の妻の落胆ぶりを見るのはとてもとてもつらかったです。
こういう失敗を防ぐためには、とにかくポーカーフェイスをつらぬくことです。指示を出すときは、教材の方を見ないようにして、子どもの額の中心を見るようにします。子どもがどちらかの教材にさわるまでは、身じろぎもしてはいけません。子どもが間違えそうになっていて、どんなにそれをやめさせたいと思っても、です。
その代わり、子どもが正しい方にさわったら、直ちに心からほめてあげます。一方、子どもが間違えた方にさわったら、静かに「ちがう」というか、全く黙ったままで、しばらく間を空けます。次の試行では、指示を出すと同時にプロンプトして、正解させます。
自分がヒントを出しているかも知れない、と思ったときは、目を伏せて指示を出したり、口を隠して指示を出したりしてみるといいです。それでも正解したら、子どもさんは本当に分かっている、と考えていいでしょう。
誰か他の人に見てもらったり、代わりに指示を出してもらうことも大切です。自分1人でやっていると、自分がどんなヒントを出しているか、なかなかわからないものです。家族の誰かでいいですから、客観的な目で見てもらうといいでしょう。ただし、夫婦でこれをやると、ついけんかの種になってしまうものですが・・・。
藤坂