ミニマガつみき

プログラム紹介

第3号  2007.03.15:「できたカード(アクティビティスケジュール)」

<プログラム紹介>
今日のテーマ「できたカード(アクティビティスケジュール)」

毎月第三週は、療育プログラムの紹介をしていきます。

今日ご紹介するのは、私が「できたカード」と呼んでいるプログラムです。私のコンサルティングを受けているご家庭のうちの何軒かには、すでにおなじみのものです。

「できたカード」は一種の自習スキルです。以前に塚越和子先生に教えて頂いた「アクティビティースケジュール」に、PECSからアイディアを得た報告スキルの要素を加えて考案したものです。

具体的には、あらかじめ示されたスケジュールに従って、ある程度長い時間、自分で作業に取り組み、終わったら、大人にそれを報告に行きます。「できたカード」というのは、紙に「できた」と書いてあるだけのお手製のカードですが、子どもは一連の作業が終わったら、できたカードを持って、大人(例えばお母さん)のところに持って行きます。
お母さんにカードを手渡しながら、最初はお母さんに促されて、「できた」と言います。そのうちカードがなくても、「できました」と報告できるようにしていきます。

<目的>
うちの娘もそうですが、自閉症の子どもの多くが、放っておくと自己刺激にふけってしまうので、適切な行動を取らせるためには、常に大人がそばについて、指示やプロンプトを出してやる必要があります。

しかし家庭では、お母さんは家事をしないといけないので、いつもかまってやるわけにはいきません。
そんなとき、「これとこれとこれ、やっておきなさいね。できたらお母さんに教えに来てね」と指示を出して、お子さんがその通りにすることができたら、どんなにいいでしょう。

また、このスキルは、子どもが成人に達して、仕事に従事するようになってからも非常に役立ちます。

「アクティビティ・スケジュール」とは、このように「スケジュールに従って、自分で作業に従事する」行動を教えるプログラムです。
この領域は元々TEACCHがお得意ですが、それをABAの手法で教えよう、というわけです。

対象児としては、言葉のない、比較的重いお子さんから、比較的高機能のお子さんまで、広く対象とすることができます。年齢層も幅広くて、下は3才くらいから、上は成人期まで応用できます。

<教え方>
ステップ1
まず「できたカード」を大人に手渡すことを教えます。つまり最後の手続を最初に教えるのです。バックチェイニングの考え方ですね。
5×10㎝くらいの厚紙を用意して、そこに「できた」とマジックで書きます。(文字が読めない場合は、花丸かなにかを書いてあげるといいでしょう)
子どもを椅子に座らせて、手に「できたカード」を持たせます。大人が手のひらを出して、カードを手渡させ、すぐにほめてご褒美を与えます。

徐々に、慎重に大人との距離を離していきます。子どもの前のテーブルに「できたカード」を置き、大人は1メートルほど離れたところに座ります。子どもがカードを取って、立ち上がり、大人の方に歩いてきてカードを手渡すことができたら、強化します。
「できたカード」も、最初は子どもの目の前に置きますが、徐々にテーブルの隅、あるいは少し離れた棚の上において、それでも取りに行って大人に手渡せるようにします。この辺はPECSの応用です。
また言葉のある子どもの場合は、手渡すときに最初はプロンプトして「できた」と言わせます。

ステップ2
簡単な作業課題を一つ用意します。例えばサイコロのたくさん入ったペットボトルを子どもの前に置き、その横に「できたカード」を置きます。大人はテーブルを挟んですぐ近くで向かい合います。

サイコロを一つ、子どもに手渡して「入れて」と言います。子どもがサイコロを入れたら、「できたカード」を指さして、カードを大人に手渡させます。手渡したら、すぐに強化子を与えます。
徐々にプロンプト(カードを指さす)を減らしていき、指ささなくても、サイコロを入れたら自分から「できたカード」を手にとって大人に渡せるようになることが目標です。
プロンプトなしでできたカードを渡せるようになったら、サイコロの数を少しずつ増やしていきます。また大人との距離も徐々に離していきます。
最終的には、20~30くらいのサイコロを全部ペットボトルに入れてから、誰にも促されないで「できたカード」を手に取り、部屋の外(例えば台所)にいる大人(例えばお母さん)にカードを私に行けることが目標です。

ステップ3
作業を2種類にします。まずテーブルの上に、左から順に、シェイプソーター(箱にいろんな形の穴が開いていて、その形にあったブロックを穴の中に入れるおもちゃ)とペットボトル、そして「できたカード」を置きます。
シェイプソーターの前にはブロックを一つ、ペットボトルの前にはサイコロを一つ、置きます。大人はすぐ近くに向かい合って座ります。
「入れて」と指示を出し、ブロックを穴に入れさせます。入れたらすぐにサイコロを指さし、これもペットボトルに入れさせます。
入れたら、これも間髪を入れずに、今度はできたカードを指さし、それを大人に手渡させます。ここで初めて、大げさにほめて、ご褒美を与えます。徐々にプロンプトを減らして、自分でシェイプソーター、ペットボトルの順に入れて、自分で「できたカード」を持って大人に手渡させるようにさせます。
できたら、シェイプソーターのブロックと、サイコロの数を少しずつ増やしていきます。大人も徐々に離れていき、最終的には廊下を隔てた台所などで待ってもできたカードを持ってこれるようにします。言葉のあるお子さんには「できた」と言わせます。(カードがなくても報告ができるようであれば、無理にカードにこだわる必要はありません)
この頃になると、「できたカード」を持ってきても、すぐに強化子を与えるのではなく、まず部屋に戻って、本当に課題を仕上げたのかどうかをチェックしてから、与えた方がいいでしょう。できていなかったら、その場で完成させます。

同じ要領で、作業(パズル、色塗りなど)を3つか4つまで増やします。常に左から右に、作業をこなしていくようにさせます。(この辺はTEACCHの「左から右へのスケジュール」の応用です) この段階で、5~15分は、大人の監視や声かけなしで、きちんとスケジュールをこなし、最後に報告に行けるようになることを目指しましょう。
強化子は、最初は子どもがそのために頑張れるような、とっておきのものにします。でも、最終的にはほめことばだけでも満足できるようになることが理想です。そのためには、課題そのものも、飽きが来ないように、時々変えたり、好きな課題を混ぜたりするとよいでしょう。

ステップ4
ここでちょっと「できたカード」をお休みして、子どもに、写真や文字で示されたスケジュールに従うことを教えます。最初は、型はめパズル(ボードに動物の絵やアルファベットなどの形がくりぬいてあり、そこに同じ形のピースをはめていくもの)を使うとよいでしょう。
テーブルの上に型はめパズルを置き、わざと数ピース取り除いて、子どもの椅子の横の床に置きます。子どもに、どれかのピースを表わす絵カードないし写真カードを見せて、「これ入れて」と言います。できたら強化します。一枚ずつ見せては入れさせていきます。マッチングができる子どもなら可能なはずです。
次は各ピースを表わす絵カードを数枚積み重ねてテーブルの左端に置きます。子どもをプロンプトして、一番上の絵カードから順番にめくって行かせ、出てきたカードに相応するピースを取ってはめさせます。勝手にバラバラにはめさせないようにします。この段階で「できたカード」を復帰させ、絵カードの一番下に「できたカード」を置いておきます。作業が全部終わったら、最後に現れた「できたカード」を取って大人に手渡させるようにします。手渡したら、もちろん強化します。

上手になったら、今度は各作業を表わす絵カードないし写真カードを用意します。(例えば色塗りなら、紙とクレヨンの写真を撮ってカードにします)
各作業に必要な教材(ペットボトル、シェイプソーター、パズルボードなど)はテーブルの周囲に置いておき、絵カードを見たら、それに該当する教材を取りに行けるように教えます。各作業に必要なピースはあらかじめいくつか取り除き、テーブルの上、またはそばの床にごちゃ混ぜに置いておきます。(そのうちに、ピースはすべてはめておき、教材を取ってきたら、自分でピースを全部外して、それを入れさせるように教えます)

上手になったら、絵カードを、ミニアルバムに挟んで、それを一枚ずつめくりながら、それに従って作業をこなしていかせるようにします。めくるのが難しいようなら、縦長の紙にカードを差し込む袋をいくつか取り付け、差し込んだ絵カードを上から順に取っては、それに指示された課題を取りに行くようにさせます。(こうなるとTEACCHそのものですね)一番最後に「できたカード」を入れておきます。

字が読めるようになったお子さんには、紙に上から順に「1.色塗り、2.パズル、3.公文のプリント」などとスケジュールを書いてやり、最後に「5.お母さんに「できました」と言いに行く(おやつ!)」などと書いておきます。そして徐々に「できたカード」は使わないようにしていきます。

就学期に入ったら、文字が読めるかどうかにかかわらず、1時間程度はこのようにしてスケジュールに従って、自分でいくつかの課題(お勉強、遊び、お手伝いなど)に従事できることを目標にしましょう。

藤坂