療育のコツ・子育てのこつ
第33号 2007.11.08:「薪のくべ方」
<療育のコツ、子育てのこつ>
今日のテーマ「薪のくべ方」
一つ一つの課題を教えることより、もっと大切なことは、いつも課題に集中して、学ぼうという気構えを子どもに保たせることです。
そんなこと、2,3才の自閉症児にできるのかって?いや、ちゃんとできるんです。
一つはいつもお話ししているコンプライアンス、つまり「ちゃんとすわって」「お手々ちゃんと」「こっち見て」といった基本的な学習姿勢を保たせるための指示にちゃんと答えられること、また分かる指示だったら、逆らわずに言うことを聞ける、ということが大切ですが、それだけでは十分ではありません。
いくら手をおひざにおいてしっかりこっちを見ていても、実はぼおっとしている、ということはありうるんです。そんなときは、すでにできる指示なら通りますけど、新しい、難しいことを学ばせることはできません。
ではどうしたらいいか、というと、常に適度に難しい、新しい課題を与えて、それを乗り越えさせる、そして乗り越えたことに良質の強化子を伴わせる、ということが大切です。
例えば、動作模倣、音声指示、物の名前は一通りできたから、というので、それは復習だけに留めて、色や形、大小や位置など、中級の概念課題ばかりをやっている親御さんが時々いらっしゃいます。ところがどれもなかなかできないので、お子さんはどんどん学習意欲が低下していって、問題行動が頻発するようになっています。
これは火が消えかけたストーブに、いきなり大きな薪を何本もほうりこむようなもので、そのままではせっかくの火、つまり学習意欲が消えてしまいます。
このような中級の難しい課題をクリアさせるコツは、動作模倣、音声指示、物の名前などの基礎課題を、一通りやってそれでおしまいにするのではなく、つねにそれらに新しいレパートリーを追加していって、それを習得するチャンスを、いつも子どもに与え続けることです。
私はこれを「課題を横に広げる」と言っています。
例えば、お子さんが、物の名前を100くらい覚えたとします。でもそこでやめておくのではなくて、毎日、1つくらいずつ、常に新しい名前を教えていきます。もちろん無用なものを教える必要はありませんから、生活に役立ちそうな、身の回りのものの名前を優先的に教えます。それでも考えてみれば、あっという間に数百に達するはずです。
すでに100くらい覚えているのですから、名詞を新たに覚えることは、お子さんにとってそんなに難しいことではないでしょう。ちゃんと大人の指示と目の前の教材に注意を払っていれば、すぐに習得できるはずです。しかしぼおっとして他のことを考えていたのでは、そんな簡単な課題でも覚えられません。
つまりそんなに難しくない代わりに、ただの復習課題ほど簡単なわけでもない、という、ほどほどの難易度の課題をいつも導入し続けます。そして復習課題に正解しても、あまり大した強化子は与えない代わりに、それらの新しいレパートリーを習得したときは、思いっきりほめて、いい強化子を与えます。
そうすれば、お子さんはいつも適度な緊張感を保って、新しい課題を習得することに前向きになるはずです。
さっきのストーブのたとえで行くと、最初は燃えやすい新聞紙と木っ端切れで火を作りますね。次はもう尐し持ちのよい、小さな薪をくべます。そうすると火力がだんだん強くなっていきます。
火力が強くなってきたら、そろそろもう尐し大きな薪をくべます。するともっと火力が大きくなります。そうなったら、もう太い薪を丸ごと入れても大丈夫です。そのストーブは旺盛な火力で、その薪をぺろりと消化してくれるでしょう。
子どもの場合も、最初はごく簡単な、すぐにクリアできる課題からスタートします。これはいわば新聞紙と木っ端切れに当たります。
それらに成功したら、すぐに強化子を与えます。そうやって学習意欲に最初の火をともすことに成功したら、次はもう尐し難しい課題、マッチングとか動作模倣、音声指示など、を与えます。これは木っ端切れよりもう尐し太めの薪に当たります。
うまくこれらに火がついたら、同じサイズの小さい薪を絶やさないようにして、火力の維持を図ります。つまり「課題を横に広げていく」のです。 そうすると次第に火、つまり学習意欲と学習能力がもっと強さを増していきます。それが中級課題に入るタイミングです。
中級課題に入っても、新しい課題を手当たり次第に導入するのではなく、難易度を見比べながら、比較的わが子が取っつきやすい課題から尐しずつ導入しましょう。うっかり大きすぎる薪をくべてしまうと、うまく燃えなくて、一気に火力が下がってしまいますからね。
そういえば最近は、薪のストーブなんて使ったことのない人が多いんでしょうね。たとえが古すぎたでしょうか。
藤坂