ABAミニ知識
第36号 2007.12.06:「般化」
<ABAミニ講座>
今日のテーマ「般化」
般化、というのは、簡単に言うと、ある場所、ある人、ある教材に対してできるようになったことが、他の場所、他の人、他の教材に対してもできるようになる、ということです。
自閉症の子どもはこれがとても苦手、とされています。
例えば、家でお母さんが、くもんのカードを使って「ライオン」という名前を子どもに教えたとしましょう。健常児なら、その数日後におじいちゃんに連れられて動物園に行き、そこでライオンを見たとき、ライオンを指さしながら「ライオン」と大きい声で言っておじいさんを喜ばせるかも知れません。
しかし自閉症児には、それがなかなか難しいのです。
まず家で出来るようになったことが、すぐに他の場所でもできるようになるとは限りません。皆さんも、お子さんをスーパーや公園に連れて行くと、指示が全く通らなくなるという経験をされたことがあるのではないでしょうか。
次にお母さんの指示や質問に答えられるようになったからと言って、すぐに他の人の質問に答えられるようになるわけではありません。お母さんが「これはなあに?」と聞くと「ライオン」と言えても、おじいちゃんが「あれはなんじゃ?」と聞くときょとんとしていたりします。質問のせりふが違うだけではなく、聞き方の調子や、声の大きさ、そもそも質問している人が日頃、その子にどう接しているか、ということが、子どもの反応を大きく左右してしまうのです。
また、特定の絵カードで「らいおん」という名前を覚えたからと言って、他の絵や写真、ミニチュアや実物のライオンを、すぐに「ライオン」と分かるわけではありません。
健常児は、他の物と比較して、その物の本質的な特徴を捉えることが割と得意です。ですから一つか二つ、ライオンの見本を見せられたら、すぐに本物のライオンを見て、「ライオン」と言えたりします。
しかし自閉症の子どもはそれが苦手なようです。一枚の絵カードで「ライオン」と言えるようになっても、ちょっと違う絵や写真だと、もう分からなくなってしまいます。ましてミニチュアや実物だと余計に分かりません。最初の教材と差が激しすぎるからです。
このように、自閉症児は、ある特定の刺激に対してある反応をすることを学んだからと言って、それと類似する別の刺激に対して同じ反応を返す、ということが苦手なのです。
(もっとも実際にはその逆、つまり「過剰般化」という問題もありますが、ここでは置いておきます)
ではどうしたらいいのでしょうか。簡単に言うと、2つの方法があります。
1つは、刺激の差をなるべく小さくする、ということです。
例えばお母さんの指示には答えるのだけど、他の家族の指示には全く答えようとしない、としましょう。その場合は、他の家族にお母さんの指示の出し方を見てもらい、なるべくその通りに指示を出してもらいます。
指示のせりふ、声のトーン、タイミング、そしてこれが大事なところですが、指示に答えられたときに同じように強化し、答えなかったときは同じように無視して間を空ける、といった事後の対応もなるべく同じにしてもらいます。そうすれば、お子さんが他の家族の指示に答える可能性は、ぐっと高くなるでしょう。
教材も同じです。ライオンの実物やその写真、映像を見て「ライオン」と言えるようになるのが最終目標だとすれば、最初からなるべくそれに近い教材を使って「ライオン」を教えます。私が物の名前付けの時に、なるべくカードではなくミニチュアで教えるようにお勧めするのはそのためです。
もう1つは、できるだけ早くから複数の刺激を使って教える、ということです。
例えばライオンを教えるとき、最初にくもんのカードで「ライオン」と言えるようになったら、すぐに動物絵本の写真を切り抜いてカードにして、それも「ライオン」と教えます。またライオンのぬいぐるみも教材にして、「ライオン」と教えます。マンガのライオンも「ライオン」と教えます。 このように「ライオン」のカテゴリーの中に入る多種多様な刺激のうち、なるべく種類の違うもの(絵、写真、ぬいぐるみ、マンガ)から代表的な物を取り出して、そのどれにも「ライオン」と反応することを教えます。そうすると、あるとき、全く新しいライオンを見せられたときも、その代表例のどれかに似ている可能性が高くなるので、それだけそれを「ライオン」と言える可能性も高くなる、というわけです。
この2つの方法を上手に使えば、「般化の困難」なんて怖くありません。皆さんも、ぜひやってみて下さい。
藤坂