療育のコツ・子育てのこつ
第41号 2008.01.10:「道頓堀発達相談より」
<療育のコツ、子育てのこつ>
今日のテーマ「道頓堀発達相談より」
今日は道頓堀で行なっている発達相談の日でした。この発達相談にはいつもいろんなお子さんが来るので、私もとても勉強になっています。
その今日の発達相談の経験から、皆さんにも参考になりそうなエピソードを拾ってみたいと思います。
*食い付きをよくする
3 才のTくんは音声模倣に取り組んでいます。50音のうち半分くらいは出るようになりましたが、残りがなかなか増えません。
今日は病み上がりのせいか、いつもよりさらに反応が鈍い感じでした。
強化子に使ったのはお菓子やシャボン玉で、Tくんはそれが好きなのですが、そのために一生懸命音声模倣をやろう、というほどではありません。
そこで、いつもは強化子をあらかじめ見せたりしないのですが(それと引き替えにしかやらなくなるので)、やる気を高めるために、強化子をあらかじめ見せて、気を引くことにしました(こういうのを「確立操作」というんでしたね)。しかし事前に強化子を見せても、それだけではまだ食い付きがよくありません。
そこでさらにTくんが強化子をゲットする寸前を狙うことにしました。
どういうことかというと、例えば強化子にシャボン玉を使うとしましょう。 Tくんはシャボン玉を自分で吹くのが好きです。そこでストロー?にシャボン玉液をつけてから、それを彼の口元まで持っていきます。
彼がそのストローを手に取った瞬間、私はストローから手を離さず、ストローを引っ張るTくんの行動を一瞬妨害します。その瞬間が、Tくんの「シャボン玉が吹きたい」というモチベーションが一番高まる時です。そのときにすかさず、模倣して欲しい音、例えば「た」を言うのです。
そうすると、普段は全然模倣してくれない音も、模倣してくれることがわかりました。タイミングをちょっとでもずらすと、反応は急に落ちてしまいました。
お菓子でも同じです。一応は好きなのですが、初めての音でも何とかまねしよう、という気を起こさせるほど、強くありません。
そこでTくんの口元までお菓子のかけらを持って行き、まさに食い付こうとしたその瞬間に、お菓子を持っている手でちょっと邪魔をして、音声を言います。そうすると苦手な音でもまねしてくれるのです。
お母さんもびっくりしていましたが、同じ強化子でも使い方次第でこうも違うのか、と改めて思い知らされた出来事でした。
*プロンプトを惜しまない
2才のHちゃんはセラピーを初めて2ヶ月余り。最初の一ヶ月はさほど苦労もなく、いろんなことがどんどんできるようになっていったのですが、それ以降は新しいことを覚えるのがむずかしくなり、やや停滞気味です。
例えば動作模倣で、ほっぺに触る動作と耳に触る動作が区別できません。私が自分の耳たぶをつまみながら、「こうして」というと、Hちゃんは自分のほっぺをつまんでしまうのです。
ほっぺをつまむ前にHちゃんの手を取って、プロンプトで耳たぶをつまませようと思うのですが、Hちゃんが素早くほっぺをつまんでしまうので、間に合いません。
そこで私が自分の左手の甲をHちゃんの左のほっぺにあてがうようにしてガードし、Hちゃんが自分のほっぺに触れないようにしました。その上で私は「こうして」と言いながら、自分の右耳を右の指でつまみました。そして直後に右手でHちゃんの左手を取って、Hちゃんの左耳をつまませました。 (
ちなみにHちゃんは左利きです。右利きなら上の手続は左右逆になります) Hちゃんのほっぺを手で覆うのは、誤反応をブロックする一種のプロンプトです。
ここまで周到にプロンプトすると、Hちゃんも自分の耳たぶをつまめるようになってきました。しかしここからがまた大切です。
できたのだから、と考えてすぐにプロンプトをやめてしまうと、またほっぺをつまんでしまいます。実際、ご両親はそれまで、プロンプトを早めにやめてしまっていたそうです。
そこでくどいくらい何度もフルプロンプトで正解させて、それから少しずつプロンプトを減らしていきました。最初はHちゃんのほっぺの半分だけ手で覆い、その状態を数試行続けます。その次の試行はほっぺを4分の1だけ覆います。
このようにプロンプトを慎重にフェーディングしていくと、プロンプトなしでも安定して耳たぶをつまめるようになりました。
このように耳たぶをつまむ行為をしっかり固めておいてから、それと区別させたい動作、つまりほっぺに触る、という行動をやはりプロンプトして教え、そこからその二つの動作のランダムローテーションにかかるのです。
とてもまどろっこしいのですが、このようにしつこいほど何度も、フルプロンプトで正解させて、正解の行動を身体で覚えさせるのがこつだ、と親御さんには説明しました。
以上です。
藤坂