療育のコツ・子育てのこつ
第47号 2008.03.13:「ソーシャルスキル・トレーニング(SST)」
<療育のコツ、子育てのこつ>
今日のテーマ「ソーシャルスキル・トレーニング(SST)」
「ソーシャルスキル・トレーニング(Social Skill Training, SST)」というのは、社会性、つまり集団生活や人との関わり方がうまくいかない子どもや成人に対して、そのような社会スキルを教える訓練のことです。以下、SSTと呼びます。
対象は様々ですが、ここでは幼稚園から小学校程度の高機能自閉症児を念頭におきます。
SSTは基本的に、
①教示、②モデル提示、③リハーサル、④フィードバックの4つの手順からなっています。
例えば、友達とうまく会話できない高機能自閉症の子どもを例に取りましょう。
まずその子どもが友達と会話している様子を観察して、どこに問題があるかを具体的に見つけます。
その結果、彼には、
①相手が話しているときによそを向くことが多い
②相手の話を最後まで聞かずに自分のことを話し出すことが多い
③相手の話にケチをつけることが多い
という問題点があることがわかりました。
次にこの問題点を一つずつ取り上げて、それを改善するための訓練を行ないます。
例えば、②の「相手の話を最後まで聞かずに自分のことを話し出す」という問題を取り上げましょう。
まず「教示」です。本人に、具体的な例を挙げて、自分がいい話し方をしていない、ということに気付いてもらいます。
そのとき、言葉でいうだけではよく伝わらないようなら、以前にテレビでも紹介していた「コミック会話」のように、簡単な絵を描いたり、紙芝居のようなものを作って説明するといいでしょう。
まず本人の会話をちょっと誇張気味に再現して見せ、どこが悪いかを指摘させます。分からないようなら、教えてあげます。「最後まで聞いてないね」「Aくんはまだ話したかったのにね」
「じゃあ、どうしたらいいんだろう」と問いかけて、「最後まで聞く」「自分のことばかり話さない」という答えを引き出します。
しかしそれだけでは、実際の行動の改善に結びつかないことが多いのです。そこで次の手順に入ります。
次は「モデル提示」です。よい例を具体的に示すのです。
このとき、なるべくリアルな場面を再現した方がいいので、生身の人間を2人登場させます。例えばお父さんとお母さんで会話をしてみます。
まず悪い例から再現します。お父さんが「ねえねえ、聞いて」とお母さんに話しかけるのに、お母さんは最後まで聞かずに、自分の話を始めます。「これはどう?」と子どもに聞いて、「だめ」「最後まで聞かないから」と言わせます。
次にいい例を示します。お父さんが話し始めたら、お母さんは相槌を打ちながら、最後まで聞きます。子どもに「これはどう?」と聞いて、「いい」「最後まで聞いたから」と言わせます。
次の手順が「リハーサル」です。これは子どもに実際に模擬場面で正しい行動を練習させるのです。
「今度は○○くんがお父さんとお話ししてご覧。「うん、うん」って言いながら、最後までお話を聞くんだよ」
このように教示して、お父さんが子どもに話しかけて、子どもに、相槌を打ちながら最後まで話しを聞かせます。
いきなり上手にできたら、具体的にどこがどうよかったかをはっきり言って、子どもをほめてあげます。これが「フィードバック」です。
ほめるだけでは弱いようなら、トークン(シールなど)を一つあげて、それがいくつか貯まったら、子どもの喜ぶごほうびと交換するようにするといいでしょう。
上手にできなかった部分があったら、そこを指摘して、もう一度やらせまう。悪い点を指摘するのも、やはり「フィードバック」です。
言うだけではだめだろう、と思ったら、もう一度、お母さんがお父さんと会話して、モデルを示します。ここでも、よい例を見せるだけでなく、先に子どもの悪い点を再現してみせてから、よい例を見せると、余計に効果的でしょう。
再度モデルを見せてから、もう一度子どもにリハーサルさせます。そしてまたフィードバックを与えます。上手にできるまで、このサイクルを繰り返します。
模擬場面で、上手に最後まで話を聞けるようになったら、現実場面に般化を図ります。そのためには、お友だちを家に招いて、ピアトレーニングを行なったり、親やセラピストが幼稚園や小学校に付き添っていき、そこで他のお友だちと会話する機会を捉えて、練習します。大人はそばにいて、正しい行動をプロンプトし、できたら強化します。介助員が協力してくれたら、それでもいいでしょう。
藤坂