あれこれ
第49号 2008.03.27:「綾ちゃんニュース」
<あれこれ>
今日のテーマ「綾ちゃんニュース」
<ハラハラドキドキ卒業式>
先日、綾はとうとう卒業式を迎えました。
学校は2週間ほど前から卒業式の練習を始めました。一人一人せりふもあるようなので大変です。
幸い、綾はせりふを言うタイミングも割と簡単に覚えました。そこで妻はもうそばに付かないことにしました。
2 日前の予行演習では、大きい声ではきはきとせりふを言い、歌も大きな声で歌えたようで、職員室でも「綾ちゃんはえらい」という話が持ち上がったそうです(妻の耳にはそういう情報も入ってきます)。
しかし予行演習と本番は違います。何が違うか、というと待ち時間の違いです。せりふを言えるかどうか、というよりも、果たして長い待ち時間に綾が耐えられるか。これが本番を間近に控えた私たちの一番の心配事でした。
さて卒業式当日です。私も妻も、保護者席で見ています。私はビデオカメラを構えています。
こどもたちは体育館のステージ脇から5人ずつ入ってきて、観客に一礼し、それからステージを降りて、保護者と向かい合った卒業生席に座ります。なかなか気の利いた演出だと思いました。綾も上手にお辞儀をして、席にすわりました。
次は卒業証書授与です。前にすわった子から一人ずつ立ち上がって、体育館中央に作られた、校長先生の演台に向かいます。名前を言われて立ち上がるのではなく、自分の隣の子が立ち上がって、数メートル歩いたら、自分も立ち上がるのです。
綾の番が近づいてきました。カメラの画面から覗くと、なんだかぼんやりしています。
前の子が立ち上がって歩き出しました。果たしてタイミングよく立ち上がれるでしょうか。
ああ、やっぱりぼんやりしています。隣の子とうしろの子に突っつかれて、ようやく立ち上がりました。しかし、あとは練習どおりに直角に歩き、演台の前でも、自分から両手を差し出して、しっかり証書を受け取ることができました。あとで校長先生が、「両手を出しなさい、と声をかけないといけないかと思っていたけれど、自分から手を出せて立派でしたよ」と言って下さいました。
さて、証書を受け取って、自分の席に戻ってからが、いよいよ問題です。あとは校長先生や来賓のお話の間、ただすわって待っていないといけないからです。果たして、おとなしく待っていられるでしょうか。
綾が自分の席に戻ってからも、たくさんの子が次々に証書を受け取り続けます。最後の子が証書を受け取り終わるまでに、すでに綾はかなり待ちくたびれたようです。だんだん髪を掻いたり、身体をわずかに前後に揺すったりし始めました。私は振り返って、うしろにいる妻と顔を見つめ合いました。
それから、長い長い校長先生の話が始まりました。きちんとお話を聞いていたいのですが、それどころではありません。とにかく早く終わってくれ、と祈るだけです。そのうち綾は眠くなったようで、ときどきあくびをして目をこすったりし始めました。そうかと思えば、ひざの上に置いた大きな証書はさみをいじって、落っことしそうになりました。
校長先生のお話が一段落しました。一瞬、「終わったのかな」と期待したのですが、「もう一つ、皆さんに言いたいことがあります」と、また長いお話が始まりました。
綾は今度は、なにやらブツブツ言い出したようです。ここまでは聞こえませんが、口が動いているのが分かります。そうかと思えば、時々にやにや笑っています。とうとう隣の子に注意されてしまいました。それで一瞬口を閉じますが、またしばらくするとブツブツ言い出します。私は、いつ叫びだしたり、笑い出したりするのではないか、と気が気ではありませんでした。まさに爆弾を抱えている思いです。
でも、永遠のように思われた校長先生の話もようやく終わりました。
その後もPTA会長の話や、来賓紹介、祝電披露、と「待ち」の時間が続きましたが、さいわいそれほど長くはなく、始めと終わりに「起立、礼」があるので、綾も気が紛れたようで、なんとか終わりまで持ちました。
最後に、卒業生が一斉に歌を歌ってから、一人ずつ、短いセリフを言って、6年間の学校生活を振り返るコーナーがあります。これが始まると、綾は途端に別人のように集中力を取り戻しました。どうやらこれは楽しみにしていたようです。
歌は前を向いて、大きな口を開けて歌えていました。その次はいよいよ一人ずつ短いセリフを言ってつなげていく場面です。綾はうまく自分の番がこなせるでしょうか。
あやの番は、冒頭から7番目くらい。前の男の子が、「給食はおいしいかな」と言ったら、それが合図です。綾は誰からも指示されることなく、正確なタイミングで「ちょっぴり不安もあったけど」という自分のセリフを大きな声で言うことができました。見事なイントラバーバル(音声刺激を手がかりに音声反応をすること)です。これでこそ、ABAを教えてきた甲斐があったというものです。私はとてもうれしくなりました。
その後も綾は、みんなが一斉に言うせりふを一つも逃さず、大きな声で言うことができました。時々、タイミングがわずかに早くて、綾の声が観客席まで聞こえてくるほどでした。
そして、卒業式は終わりました。涙を流すどころではなく、ハラハラし通しの、しかし結構感動させられた卒業式でした。
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一年間に渡って、このミニマガつみきをほぼ毎週お届けしてきましたが、今日で、私の連載はひとまず終わりにします。
もともと毎週木曜日にお届けするはずでしたが、だんだん遅配が目立つようになり、最後は日曜の深夜になってしまいました。それでも、なんとか一年間、続けることができて、ほっとしています。読んで下さった皆さん、ありがとうございます。
すでにご案内したとおり、4月からは、一月毎に、いろんな会員さんにお願いして、4回ずつリレー連載をしてもらおうと思っています。
4 月は、ロサンジェルス在住の古参会員、飯島みゆきさんが、ご自身の療育体験や、ロスの現状について報告して下さることになっています。お楽しみに。
藤坂