ミニマガつみき

ABAミニ知識

第5号 2007.04.05:「問題行動の機能」

ABA ミニ知識
今日のテーマ「問題行動の機能」

昨日はちょうどパティントン博士のワークショップの最終日で、問題行動の機能分析についての講義を受けてきましたので、その紹介を兼ねて、問題行動の機能について説明しましょう。

問題行動とは、本人や他人の害になったり、本人の社会適応や学習の妨げになったりする行動のことを言います。

問題行動も、他のあらゆる行動と同様に、何かによって強化されているからこそ起ります。問題行動にどう対処するかを決めるためには、まずその問題行動が何によって強化されているのか、をはっきりさせなければいけません。これが「問題行動の機能」と呼ばれる問題です。

問題行動には大きく分けて4つの「機能」があります。言い換えれば問題行動は、たいてい次の4つのどれかによって強化されています(2つ以上の原因が複合することもあります)。

第一は周囲の「注目」です。例えば「泣く・ぐずる」という問題行動を例に取ると、泣く、ぐずるという行動の直後に、周りの大人が声をかけてなだめたり、かまってあげたりすると、それで泣く行動を強化してしまいます。叱ることも、しばしば注目という強化子を与えることになって、かえって問題行動が増えることがあるので、注意が必要です。

第二は、「要求の実現」です。例えば泣いたりぐずったりしたときに、周りの大人が子どもの要求に応えて、おやつを与えたり、行きたい方向に行ったり、子どもの望みをかなえてしまうと、それで泣く行動は強化されます。

第三は、嫌なことからの「回避」です。例えば何か嫌な課題をさせられようとしたときに、子どもがぐずったり泣いたりして、その結果、大人がその嫌な課題をやめたとします。するとそれによって泣く行動は強化されます。

第四は、その行動自体のもたらす「感覚刺激」です。手をひらひらさせたり、奇声を上げたりする「自己刺激」行動がこれにあたります。つまり自己刺激行動は、その行動が作り出す感覚刺激によって強化されています。パティントン先生はこれを「自動強化」と呼ばれていました。

次に問題行動への対処法は、大きく分けて問題行動が起る前に行なう「先行条件操作」と、起った後に行なう「結果操作」の二つに分かれます。パティントン先生は、先行条件操作を「先行介入」と「代替行動訓練」の二つに分けていました。「結果操作」のことは「減少手続」と呼んでおられました。 ですから先生の分類では、対処法は「先行介入」「代替行動訓練」「減少手続(結果操作)」の三つということになります。以後、それに従って説明していきます。

「先行介入」ですが、これはさらに2つに分かれます。一つは問題行動を起りにくくしたり、起ってもひどくならないようにするための物理的工夫です。

例えばかんしゃくを無視しようとしても、子どもがお母さんのめがねを取ってしまったら、無視するのはむずかしいかもしれません。それなら無視を始める前にめがねを外しておきます。顔を攻撃してくるのなら、あらかじめ立っておきます。
そんな簡単な工夫で、問題行動にずっと対処しやすくなります。物を投げたり、ひっくり返す場合は、あらかじめ投げやすい物を片づけておくと対処が楽になります。

先行介入のもう一つは、確立操作(強化子の効き目を強めたり弱めたりする事前の操作)です。
例えば、子どもの泣きやぐずりが、大人の注目によって強化されているとしたら、それへの対処法として、あらかじめいつも子どもにたくさん注意を払っておく、という方法があります。
例えばいつも子どもに簡単な指示を出し、それに従うたびに、たくさんほめて、声かけをして、かまってあげます。
そうすれば、子どもは日頃たくさん注目を得ているので、問題行動によってさらに注目を得よう、という気持ちは弱くなるはずです。

次は「代替行動訓練」です。例えば、泣く、ぐずる、という行動がその結果得られる「注目」を強化子にしているとすると、対処法として、注目を得るための、より適切な行動を教えます。
例えば、泣いて注意を引く代りに「ママ」と言いながら(あるいは黙って)、お母さんの腕をトントンと叩くことを教えます。
あるいは課題に従事することを教えることも代替行動訓練になります。
ただ泣いてもぐずっても何も得られない、でも目の前の簡単な課題を達成すれば一杯ほめてもらえて、「注目」というほうびがもらえる、ということを理解させるのです。

最後に「減少手続(結果操作)」です。
これには大きく分けて、消去と罰があります。
消去とは、ある行動に一切ほうびを与えないことでその行動を減らすことを言います。

罰とは、ある行動に罰(不快を与えるか快を取り去る)を与えることによって、その行動を減らすことを言います。

注目が問題行動の強化子である場合、まずはその行動を無視して一切のほうびを与えないこと、つまり「消去」が大切です。
例えば子どもがかんしゃくを起こしても、叱ったり、なだめたりせず、完全に無視して、かんしゃくが収まるのを辛抱強く待ちます。

しかし消去を始めると、問題行動は一時的にかえって激しさを増します。例えば子どもが泣くのを無視すると、お母さんを振り向かせようとして、もっと激しく泣いたり、ひっくり返って暴れたり、物を投げたりします。これを「消去バースト」と言います。
これを覚悟して、それでも消去を貫けるようにしておくことが大切です。しかも周囲のすべての人間が同じように接しなければいけません。

時には問題行動を無視しようとしても難しい場合があります。例えば他の子どもを殴ってけがを負わせてしまうような場合です。
こういう場合はやむを得ず、マイルドな罰を与えることがあります。例えば「タイムアウト」と言って、子どもを部屋の隅に連れて行き、1分間立たせておきます。その間、声かけはしません。時間が来たら、何事もなかったように手を離します。

パティントン先生が強調されていたのは、問題行動への対処法として一番大切なのは、代わりの適切な行動を教え、それを強化することだ、と言うことでした。

藤坂