ミニマガつみき

ゲスト会員の平岩幹男先生執筆

第59号 2008.06.16:こちらから

またまた公開セミナー準備のあおりで、遅配が続きますが、ミニマガつみきの最新号です。今月はゲスト会員で小児神経科医の平岩幹男先生の文章を紹介させて頂いています。

(前回のお話のつづきです。前回は、知的障害者の通園施設が自閉症児に対してあきらめのスタンスを取っている、というお話で終わっていました)

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しかし応用行動分析(ABA)※をしたり、あるいはTEACCH※を行なったりすることによって、お子さんの特性によっても違いますけれども、子どもたちが大きく変わってゆく可能性もあります。コミュニケーション能力や、日常生活能力に、想像もできなかったような目覚しい改善を見せる場合もあるということです。これは集団での療育ではなかなか見られません。

※ABA:Applied Behavior Analysis 行動療法の一つで、望ましい行動を強化し、望ましくない行動を抑制することによって言語のみならず発達の促進を図る方法。わが国ではつみきの会http://www.tsumiki.org/が全国的に講座や事業を展開しています。

※TEACCH は Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped CHildren の略で、基本的には自閉症に対する考え方であり、治療法でもあります。TEACCH の概念やプログラムは故Eric Schopler 先生がアメリカのノースカロライナ で集大成されたものであり、高機能自閉症だけではなく、すべての自閉症の方を対象としたプログラムです。TEACCH では当事者自身の社会への理解を高めてゆくために構造化を提唱しています。

少し横道にそれますが、ABAとTEACCHの違いを簡単に説明します。

たとえば脳血管障害で足が麻痺したとします。車椅子を作り、スロープを作り、バリアフリー化する。家庭も社会もです。これが例えてみればTEACCHです。

一方、また歩けるようにとにかく必死でリハビリテーションをする。これがABAです。

TEACCH は本人も努力することはありますが、それだけではなくシステムとして構造化するわけですから、周囲の協力が必要です(構造化のうち、視覚構造化だけが力説されすぎていますが)。

一方ABAは、たとえてみればリハビリテーションですから、自力で歩くことを目指してそれこそ大変な努力をするわけです。社会のシステムが変わらなくても、構造化がなくても、周囲の努力と支援で可能ですが、決して楽ではありませんし、多大な時間と労力が必要です。

確かに2歳の自閉症の子どもを集団に慣らしていくことも必要ではありますが、個別の療育とどう組み合わせるのか、そして治療法のない多くの精神発達遅滞に対して、介入できる可能性のある自閉症をこうした知的障害児通所施設でどう扱うか、という問題については課題が残っていると考えられます。

繰り返しますが、発達障がいの中の自閉症は、療育によって改善する可能性があります。障がいの部分が先立ってしまえば、この子の特性を、才能を見つけようとするスタンスはなくなります。

多くの療育の施設で働いている方たちが、障がいに対しての関心も仕事に対しての熱意も十分にあるのに、この点の認識は十分とは言えないかもしれません。

たとえば3歳で言葉を話すことができない自閉症児は少なくないと思われますが、ずっと話すことが出来ない精神発達遅滞であると、本当に考えていいのでしょうか。
個々に療育をすれば話せるようになる子どもたちは、決して少なくないかもしれません。

子どもにとって療育が可能な時期と時間は限られています。私の経験上、7歳までに表出言語として言葉が出てこなかった子どもが、あとで自由に話すようになった経験は、ありません。

私自身のこれまでの反省も含めてではありますが、行政としては自閉症の子どもを知的障害児通所施設に通わせればそれでよいという対応の時代は過ぎたように思います。
自閉症には、それなりの家族の努力も必要にはなりますが、知的障害児通所施設だけではなく、個別対応も含めた専門的療育や包括療育についても考えてみる必要があります。

ここにいる3歳の自閉症の子が本当にずっとしゃべることが出来ない、普通の生活が出来ないということを、誰が決められるのでしょうか。可能性を信じて個別療育に賭けてみることも、すべてがうまくいくわけではないとは思いますが、一つの選択肢かもしれません。

また集団での療育についても、障がいを抱えた子どもたちだけを対象にするのではなく、健常児も含めた包括教育の場を設定し、そこで個別の療育と併用しながら育ててゆくという方法もあるかもしれません。これについては私もお手伝いしながら、実現に向けて努力しようと考えています。

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以上です。次回をお楽しみに。

藤坂