ゲスト会員の平岩幹男先生執筆
第60号 2009.06.21:「就学指導をめぐって」
変則が続いていますが、ミニマガつみきの最新号です。今月はゲスト会員の平岩幹男先生からいただいた原稿を掲載しています。
今回は「就学指導をめぐって」というテーマです。(以上、藤坂)
【就学指導をめぐって】
就学指導は、就学指導委員会の判定に基づいて行われます。
一般的に就学時健診が10月に行われ、二次健診や就学指導委員会の判定は多くは11月に行われ、12月には特別支援学級や特別支援学校などの就学児童数を決めて教員配置を考えなければならないので、この短期間に就学指導まで行っている市町村が多くなっています。
指導は教育委員会で行う場合と、地域の学校で行う場合があり、これは市町村によって、また障害の種類や程度によって異なります。
就学指導における問題点は、教育委員会や学校は「適正就学」という原則の下に就学指導委員会の判定結果を保護者に伝え、その判定に沿った就学を指導あるいは勧告するのですが、就学指導委員会の判定そのものに問題点がある場合があり、また時間的余裕のない中で指導を行うために、しばしば保護者との間でトラブルとなり、判定とは異なる就学先を保護者に選択される場合が少なくないことです。
1994 年のサマランカ宣言*の主旨に沿えば、希望する就学先を受け入れ、その中で適切な支援を行うことが発達障がいを抱える子どもたちにとってはもっとも重要であると思われますが、現実はそううまくゆくとは限りません。
*特別な教育ニーズを有する人びとは、そのニーズに見合った教育を行えるような子ども中心の普通学校にアクセスしなければならない。インクルーシヴ(inclusive)な方向性を持つ普通学校こそが、差別的な態度とたたかい、喜んで受け入れられる地域を創り、インクルーシヴな社会を建設し、万人のための教育を達成するための最も効果的な手段である。さらにこうした学校は、大多数の子どもたちに対して効果的な教育を提供し、効率性をあげて、結局のところ教育システム全体の経費節約をもたらすものである。
就学猶予は、就学を待ってもらい、もう尐し幼稚園などで生活習慣を身につけさせたいと考える保護者が選択する場合があります。
学校教育法第18条では就学猶予について、「17条第1項又は第2項の規定によって、保護者が就学させなければならない子(以下それぞれ「学齢児童」又は「学齢生徒」という。)で、病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため、就学困難と認められる者の保護者に対しては、市町村の教育委員会は、文部科学大臣の定めるところにより、同条第1項又は第2項の義務を猶予又は免除することができる」と定めています。
発達障がいの場合には「病弱、発育不完全」には該当しないので、「その他やむを得ない事由」に該当するかが問題となります。私の経験からは、保護者と協議してから教育委員会と交渉し、就学猶予を得たこともありますが、苦労しました。
特別支援学級に行くのか、それとも通常学級に行くのか、悩んでいるお母さんたちに、私がいつもお話をするのは、6歳の時点で、20年後にこの子がグループホームではなくて、一般の社会でみんなと同じように暮らしている、と信じられるならば、やはり通常学級で学んでいくべきだろうということです。困難は存在しますが、社会資源も活用して、何とか一生懸命やりましょう、とお話をしています。
この子が将来、普通の社会で生活をすることは無理だろう、と考えるのであれは、特別支援学級、特別支援学校を選択すべきであろう、と考えています。
特別支援学級に行くのは、近所の手前、おじいさんに文句を言われるなど、いろいろ考える方もおられますが、見栄やプライドで決めるものではないことは明らかです。
特別支援学級で集団生活に慣れてから通常学級に移ることが望ましいと感じられることもありますが、就学が判定に基づいて行われる以上、就学指導委員会で通常学級に適するとの判定がなければ、それは困難です。
発達障害を抱える子どもたちの抱える問題点は、日常生活すべてを通して出ているわけではなく、場面によって出現することを考えれば、先述のサマランカ宣言の理念に沿うことが望ましいと思われます。
建前の上では出来ることになっていても、実際には、必要に応じて通常学級と特別支援学級の間を行き来できるようなシステムにはなっていないように感じています。小学校3年生以上になれば、学力という壁も大きくなります。
(つづく)
藤坂