ミニマガつみき

東京在住のナカハラさん執筆

第63号 2008.07.10:「ABA体験記」

ナカハラさんのABA体験レポート第二弾です。今回は口形模倣リストの付録付き!です。

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私はABAを始めるのと同時に、たまたまこの時期、1ヶ月半ほど日本に帰国する予定でいたアメリカ在住のABAコンサルタントに連絡を取ることができました。KSP教育コンサルタントの笹田果里さんといって、BCBA(米国行動分析認定士)の資格を持つ若く優秀な女性です。

最初の日、彼女が窓ガラスをビビビと震わすほど大きな高く澄んだ声で「すぅっご~いッ!!」「そうだね~ッ!!」と息子を強化した時は、私も主人もびっくりして目が点になってしまったのですが、息子はというと満更でもない様子。

そして息子が間違えそうになると、すかさずプロンプトして抑揚のない静かな声でさらりと「そうだねー、頑張ってるね」。
そうか、声のトーンにこれほど差をつけないと正否がはっきり伝わらないのか、と気づかされたのでした。

息子が、彼女が持ってきた光って回って音がするおもちゃに夢中になったのを見て、息子の好みも知りました。

「とにかく強化子は重要です。できればおもちゃは3日に1個用意して下さい。7個用意すれば1週間毎日違う物を使えて、飽きずに長く使えますよ」と言われた私は、暇を見つけてはおもちゃ屋を巡りをして、息子が気に入りそうな小物を集めるようになりました。

「ほめること、体を使った遊び、おもちゃ、お菓子…強化になれば何でもいいんですが、それらがホントに強化子になっているかどうかを、見てちゃんとわかることが、いいセラピストの基準です」と笹田さん。
数々の失敗を重ねてきた今、しみじみこの言葉の深さを噛みしめています。

振り返ってみると、セラピーが停滞していた時期や息子が保育園で金切り声を上げて叫んでいた時期は、いい強化子が見つけられずにいた時期と重なります。

ちなみに強化子は、おもちゃ→お菓子・果物→携帯電話のゲームやしまじろうサイト→教育テレビの子供番組を録画したもの(テレビで見せる)と変遷して、現在はノートパソコンのインターネットで見るJRなどのCM(動画)やキッズサイトのミニゲーム、幼児向けソフト「ちびっこくらぶ」が威力を発揮しています(携帯電話はあまりお勧めしません)。

さて、こうして力強い味方とともに早期療育の海に船出した私ですが、日々、息子の実力を目の当たりにして愕然とするばかりでした。

手先が不器用で特大の2ピースのパズルもはめられない。クレヨンを握らせれば我関せずで、「身体だけ置いておきますから、どうぞご自由に」といった風情。
いくら耳元で「ココ見て!」と呼びかけても視線は遠くを見たまま。つみきの模倣にも長い間つまづきました。

そして短音模倣。特にサ行、ナ行、マ行、ヤ行、ラ行、そしてオコソトノ……ヲ、ツが言えませんでした。これでは話せる訳がありません。

そんな時、笹田さんが、「ま」の音を出させるには、唇をピタッと閉じて「ん~~」と言わせてから「あ」と短く言わせる。これをうまく続けると「ま」と聞こえるようになるのをやって見せてくれました。

つみきBOOKにもちゃんと書いてあることなのですが、百聞は一見にしかず。なるほど、音声模倣もテクニックがあるのだと実感した私は、『わが子よ~』に登場するロビンのような、「スピーチ(肉体的に明瞭な音声を発すること)と言語能力(情報や思考の伝達)に問題がある人をサポートする専門家」を探そうとしました。

知識のない私がやるより専門家に教えてもらう方がいいに決まっています。しかしこの時、言語聴覚士といわれる人で早期療育に理解のある人を見つけることはできませんでした。
半年後に、ある大学病院の口腔リハビリテーション科で言語聴覚士が発音に関する悩みの相談・治療をしていると知り受診してみましたが、案の定、治療をする年齢ではないと全く相手にされませんでした。

結局、舌や口の周りの筋肉の使い方がわからないのではないかということで、笹田さんが作成してくれた口形模倣リストとつみきBOOKの課題をほぼ毎日続けました。そうして7ヶ月が過ぎた頃、やっと最後まで手こずった「ト」が言えるようになったのです。

さらにその頃から、すべての言葉を一音一音区切って発音することも(「バイバイ」が「バ・イ・バ・イ」になる)しなくなっていきました。そして「チューリップ」や「カエルの唄」を覚えて歌うようになり、雨の日には「雨だ」とつぶやくまでになったのです。

最初の「なんちゃってABA」を始めた日から数えて9ヶ月後の発達検査で、息子はDQ80になっていました。

DQ が上がり、待ちに待った言葉が出るようになってきた! と喜んだのもつかの間、私の心は日ごとに曇っていきました。
なぜなら言葉を発するようになって改めて、やっぱり息子は健常児とは違うのだ、と思い知らされたからです。 (つづく)

付録
< 口形模倣リスト >
1.口を大きく開ける
2.指で舌を触る
3.指で歯を触る
4.投げキッス
5.上唇を噛む
6.下唇を噛む
7.両頬をふくらませる
8.両頬を吸う
9.スマイル
10.インディアンの真似(あ~と言いながら口を触ったり離したりする)
11.咳をする
12.あくびの真似
13.舌で口の中から片方の頬をさす
14.舌を出したり入れたりする(ベロベロ~レロレロ~)
15.下唇を突き出す
16.両唇を突き出す
17.フーッと吹く(→風車を回す)
18.舌で口の右端を触る
19.舌で口の左端を触る
20.唇をブルブルさせる
21.口笛を吹く
22.舌打ちする
23.舌で音を鳴らす
24.舌で上の歯を触る
25.舌で下の歯を触る
26.うつむく(首を曲げる)
27.シー(静かにしてのポーズ)