東京在住のナカハラさん執筆
第64号 2008.07.17:「ABA体験記」
遅くなりました。ナカハラさんのABA体験レポート、第三弾です。お風邪を引かれていたそうです。ナカハラさん、体調がお悪いなか、長文のレポートありがとうございました。(編)
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息子は言葉が出始めるとものすごくおしゃべりになりました。朝目が覚めた瞬間から、眠りに落ちるまで一人でしゃべり続けます。しかしその内容は、絵本の一部やDVD、テレビ、歌などでした。
最近ではテレビのニュースやCM、番組のナレーションを聞きながら同時通訳者のように話そうとしています。しまじろうのアニメも何回か見ると、数人分のセリフを丸暗記。子供向けソフトからは、「とっても体は大きいけどネコの仲間だよ。きれい好きで泳ぐのがうまいんだ(トラの説明)」など暗記して、誰かれかまわず話して聞かせます。ただ、発音がはっきりしない上に、本人が内容を理解しないで話している事が問題です。
また、手を耳に当てて受話器を持っている真似をして「ママ、もしもし」と話してみせたり、帰宅時に「ただいま!」と元気よく言うのも実は、電話会社のCMやアニメのワンシーンを一人で再現しているだけだったりして、すべてが借りモノという気がします。
「ママ、こっち来て。早く来て」「眠い。ママ、ボクと一緒に寝よう」といったマンドや、「ねえねえ、ママ見て。ボク、パパの真似してるよ!」など、教えたセリフはすぐに覚えるけれど、そのセリフを他のシーンで応用することはありません。そのセリフを覚えた状況でだけ記憶の箱が開くといった感じです。
その一方、自発で出る言葉となると非常にシンプルで、「歩く 電車乗る」(外出先で。家に帰りたいの意)や、「パソコン 新幹線見る トラック 夜」(ノートパソコンで夜間トラックが新幹線を輸送しているシーンを見たいの意)などとなります。
「要するに、自分で文章をつくることが、ジョージにはとてもむずかしかったのだ。会話表現集にたよる外国人と同じだ。頭の中に暗記した文をためこんでおき、その場面にもっともふさわしいと思われるものをとりだす。」(『自閉症ボーイズ ジョージ&サム』より)
この本を読んだ時、あ~~そうなのか……と思いました。結局、あらゆる状況を想定して、数多くのセリフを暗記させていくしかないのでしょうか……。
とはいうものの、1年前の今頃はまだ単音模倣で苦労していたのですから、それを思えば信じられないぐらいの進化です。一歩前進するために2歩も3歩も下がらなければならない日々につい忘れてしまいがちですが、日々の努力は着実に息子の脳を活性化させています。
ここ最近の変化としては、この春頃課題で教えた「見て」が般化され、1日家にいる時など、1分に1回は「ママ、見て!」と注目マンドを言うようになりました。
それと、私がずっと言い続けてきた「愛してるよ」の言葉を、息子がよく言うようになりました。自転車の前カゴにチョコンと座っていた頃、息子の頭にチューしながら「愛してるよ」。私の下手なセラピーで泣かせてしまった時にも「(ごめんね~)愛してるよ」、寝る前にも「今日も1日頑張って偉かったね。愛してるよ」と1日何回も言い続けてきたのですが、ある日、保育園の先生が「お母さん、今日まあくんが私に愛してるよ」って言ったんですけど。
それが最初でした。近頃はずっと寝る前の挨拶程度だったのですが、つい先日、私がプンプン怒りながら台所に立っていた時のこと。下からじっと心配そうに私の顔を見つめて「ママ、愛してるよ」。この時ばかりは頬がゆるんで「もう怒ってないよ~」と言ってしまいました。
保育園での2年数ヶ月で、息子の子供への強い苦手意識は次第におさまっていきました。
現在は、子供は苦手だけれどみんなと楽しい雰囲気を共有するのは好き、という感じのようです。この春からピアトレを意識して、私が介入してなるべく他の子と関わりを持たそうとしているのですが、そこでお友達の顔を全く見ていないことに気付いて愕然としました。2年も一緒に過ごしているのに、名前を覚えていないことも気がかりでした。
そこで、春の父母会の時に自閉症のことをカミングアウトして、「お友達の顔をちゃんと見て挨拶できるように練習したいので、写真を撮らせてください」とお願いしました。その時、疲れがたまっていたせいか、不覚にも涙声で訴えるという情けない状態に。
あ~、みっともなかった、記憶から消してしまいたいとその日はかなり落ち込んだのですが、それが憐れを誘ったのか励ましてくれるお母さんもいて、次の日から子供達が「まあくん、おはよう!」「まあくん、バイバイ!」と積極的に挨拶してくれるようになったのです。ところが息子はかえって緊張してしまい、ひきつった顔をして今まで以上に蚊の鳴くような声に。そんなに他の子と関わることは辛いの……? と悲しくなりました。
でも続けるものですね。それから1ヵ月ぐらいすると、お友達の顔を見て挨拶できるようになってきたのです。その間、写真で名前を覚えさせるのはもちろん、朝、園庭で子供達が遊んでいる時に私も一緒になってお友達の名前を呼びながらボール蹴りをしたり、遊具で遊んだりしました。するとほんの少しですが、息子がお友達と関わるシーンが出てきたのです。
実は長い間ママとパパを正しく言えなかったこともあり、お友達の名前が覚えられないのも脳機能障害が原因なのか…と不安だったのですが、『脳科学と発達障害』(中央法規)によると、「自閉症の子供や大人は紡錘回の機能に障害があって顔認知が下手なのではなく、むしろ顔への関心が別の理由で低かったために紡錘回の機能をうまく育てられなかったと考えるほうが筋が通っている……」とのこと。
そしてこのことを証明するように、息子はお友達の顔が見られるようになると、ちゃんと名前も覚え、「○○くん、バイバイ!」と挨拶できるようになってきたのです。
やっとピアトレのスタートラインに立てたかな~といった心境です。
(つづく)