ABAミニ知識
第9号 2007.05.03:「オペラントとレスポンデント」
<ABAミニ知識>
今日のテーマ「オペラントとレスポンデント」
ABA(応用行動分析)とその元になる行動分析学では、動物や人間の行動を、大きく「オペラント」と「レスポンデント」の二つに分けます。
「レスポンデント」というのは、ご飯を食べるときに唾液が出たり、風が目にあたるとまばたきしたり、といった、人間や動物が生まれながらに備えている反射的な行動のことです。
それに対して「オペラント」というのは、歩いたり、背伸びしたり、お話ししたり、といった、原始的な反射以外に、私たちが行なうありとあらゆる行動を指します。
行動分析学にとってこの二つの区別が大切なのは、この二つの行動は全く違う学習のされ方をするからです。
レスポンデントは、生まれながらに備わっている反射的反応なので、一生涯を通じて、基本的に変化しません。私たちは物を噛んだときに唾液を出すことを、小学校で学んだり、年を取ったからといって忘れたりはしませんよね。
しかしレスポンデントも学習されることがあります。生まれたときには唾液の分泌や瞬きを引き起こさなかったような外界の刺激が、学習の結果、それらを引き起こすようになることがあるのです。これを「レスポンデント条件付け(古典的条件付け)」と言います。
このレスポンデント条件付けのメカニズムを発見したのが、有名なパブロフです。パブロフ博士は、犬を使って唾液の分泌の研究をしていたのですが、あるとき、いつもえさをやる助手がドアを開けて部屋に入ってくるだけで、犬が唾液を分泌することを発見しました。
つまりもともと生まれながらには唾液の分泌を引き起こさないはずの、ドアの音が、学習の結果、唾液の分泌を引き起こすようになったのです。 パ
ブロフの研究の結果、次のようなことがわかりました。 それまでレスポンデント(例えば唾液の分泌)を引き起こさなかった、無関係な刺激(例えば、ドアの音)を、レスポンデントを生まれながらに引き起こす刺激(例えば食べ物を口に入れること)の直前または同時に何度も伴わせると、やがてその無関係だった刺激(ドアの音)だけでも、レスポンデント(唾液分泌)を引き起こすようになるのです。
無関係な刺激のことを「中性刺激」、生まれながらにレスポンデントを引き起こす刺激を「無条件刺激」、学習の結果、レスポンデントを引き起こすようになった刺激を「条件刺激」と言います。
この用語を使って、さっき言ったことを言い直すと、ドアの音のような中性刺激を、えさを口に入れるという無条件刺激と何度も対提示することによって、中性刺激が条件刺激となり、それだけでも唾液の分泌というレスポンデントを引き起こすようになるのです。
一方、オペラントは全く別の学習のされ方をします。レスポンデントは、その行動の後に起ったことに左右されません。光が目に当たると、瞳孔が収縮するのは典型的なレスポンデントですが、瞳孔が収縮したときに、お母さんにほめてもらったり、お小遣いをもらったからと言って、それでその後収縮しやすくなるわけではありませんよね。
しかしオペラントはその行動の後に何が起るのか、によって、その後の起り方が左右されるのです。例えば、冷蔵庫のドアを開ける、というのはオペラントですが、この行動は、ドアを開けるたびに、おいしい食べ物や、のどの渇きを癒す飲み物が中に見つかることによって、その後、頻繁に繰り返されるようになります。逆に何度開けても中が空っぽであれば、この行動は起らなくなります。
このようにオペラントが、後の出来事(刺激)によって増えたり、減ったりすることを、「オペラント条件付け」と言います。そしてオペラント行動の後に起って、その行動を以後増やす働きを持った刺激を、「強化刺激」あるいは「強化子」と言います。
私たち高等生物の行動は、ほとんどがオペラントなので、オペラント条件付けの例はいくらでも挙げることができます。例えば私たちがビールを飲むのは、過去にビールを飲んで、いい気持ちになったからですし、背伸びをするのは、それによって肩のこりがほぐれるからです。
さて「行動療法」(応用行動分析)とは、このレスポンデント条件付けやオペラント条件付けの原理を使って、人間の様々な行動上の問題を解決したり、軽減させようと言う試みのことを言います。
レスポンデント条件付けの原理を応用した行動療法の例としては、恐怖症の治療があります。
それに対して、私たちに関心のある自閉症やその他の発達障害の治療教育に用いられるのは、主にオペラント条件付けの方です。ただ発達障害児は、いろんな物に過度の恐怖を示すことがあるので、そんなときはレスポンデント条件付けの原理も応用します。
恐怖症の治療に、どのようにレスポンデント条件付けを応用するかは、また別の機会にお話し致しましょう。
藤坂