第53号 2008.04.24:
「IEPゴールとABAプログラム 」

飯島さんによるロス・レポートの最終回です。

今回はエージェンシーによるABAプログラムの紹介をして下さいました。
アメリカでも、やっぱりいいセラピスト、よくないセラピストはいるようで、見極めるのは親の仕事のようです。 飯島さん、お仕事忙しい中、ありがとうございました。
藤坂

IEP ゴールとABAプログラム

娘のエージェンシーによるABAプログラムも7年目に入りました。 その間転居により学校区が一度かわりABAエージェンシーも3つめとなります。

現在のエージェンシーはDTTとPRTの混合プログラムをメインにしている会社です。
Coordinator、Supervisor、そして娘に 1対1でセッションをするTherapistが 1 つのチームとなり、Supervisorがセラピストのトレーニングや セラピストがつけたデータを集計し、プログラムをつくります。

このエージェンシーの場合Supervisorの上に位置するCoordinatorが Supervisor を指導しプログラムの進行状況を確認するしくみになっています。 (ちなみにこの会社ではCoordinatorの上にPh.Dを持つDirectorがいます)

月に1回クリニックミーティングが行われ、プログラムの進捗状況や 問題行動の対処、またセッション時間以外での問題行動の対処の仕方 などが話し合われます。

スーパーバイザーとコーディネーターはIEPチームの一員となり IEP ミーティングの際はセッションのデータをまとめプログラムの成果と ゴールへの到達度を報告しなければなりません。

学校負担のABAプログラムの場合子供のABAプログラムは年間のIEPゴールに 基づいて作成されます。これは家でのプログラムが学校だけでは 学習できない場合の補助プログラムとして提供されているサービスだからです。
学校と家の両方でIEPゴールを到達させるためのプログラムとなり、娘の場合 約30ある年間IEPゴールに基づいたドリルによってプログラムがすすめられます。

現在はリーディングや作文、算数、会話・言語スキルのゴールのドリルが 中心です。また一部学校でのソーシャルスキルの補助プログラムとして、 身だしなみを整えるなどの生活スキルのゴールも取り入れられています。
またエージェンシーは学校で娘のゴール達成度や問題行動をチェックし、 担任や学校区の自閉症スペシャリストと相談する役割もあります。

ちなみにSupervisorやCoodinatorが娘のプログラムについて働く時間も 学校区負担で時間数が決められているのでその時間数の中で クリニックミーティングを行い、セラピストの指導や学校見学に行き担任と 話す時間、プログラムを作る時間などを調整します。

過去にエージェンシーとのトラブルもいろいろありました。
明らかにトレーニングの足りないセラピスト、娘をセッション中にコントロール できないセラピストも多くいました。Supervisorと話し合い、セラピストをトレーニング してもらう時間を設けてもらったりそれでもうまくいかない時はセラピストを かえてもらう場合もあります。

娘のABAプログラムについてSupervisorと話す時、特にセッションのすすめ方で 意見が合わない時など、以前自己流のABAをしていた経験が非常に役立っています。
彼らは理論を学んで実践を積んだプロですが、子供とセラピーの相性があうかどうか セラピーによって子供の成長がみられるかを見極めるのは親の仕事です。

知人のケースですが、1年間のエージェンシーによるABAプログラムで子供の成長が みられないばかりか逆に子供の問題行動が増えた、などプログラムに問題のある エージェンシーや学校区の意向に沿って子供にABAプログラムの必要性が認めれらないとプログラムを一方的に打ち切ったりするエージェンシーもあります。

Supervisor やセラピストと長期に渡り良質のABAプログラムを継続していくことの 難しさも実感します。

私の娘は残念ながらABAプログラムを卒業できるほどの目覚しい回復は ありませんでした。
成長どころか、年齢的にも思春期を迎えることになり反抗期や新たな問題行動に対処するためのABAプログラムが今後必要になります。 学校区負担のABAプログラム終了は時間の問題ですが 娘のABAプログラムに恐らく終わりはありません。

(終わり)

第52号 2008.04.17:
「LRE – 最も制約の少ない学習環境とは」

ロスの飯島みゆきさんからのレポート、三回目です。

大変詳しいレポートで、非常に貴重な情報だと思います。
アメリカでは親による付き添いは認められないとのこと、意外と融通が利かないのですね。(編集長)

第3回 LRE – 最も制約の少ない学習環境とは

現在私の娘は地域の公立小学校内にある障害児クラスに在籍する小学校5年生(5th grade)です。
自閉症児のプレイスメント(在籍クラス)の選択は概ね日本と同じで、 地域の学校の普通学級、地域の学校内にある障害児クラス、公立の養護学校 (いくつかのシティが集まって運営、もしくはカウンティで運営している形態が多い)、 自閉症児を受け入れる私立の普通校、私立の養護学校などがあります。

アメリカの障害児教育法に定められた大枠に、第2回で触れた FAPE(Free Appropreate Public Education – 無償で適切な公教育の権利) と同列とされるもっとも重要な障害を持つ子供の権利として LRE(Least Restrictive Environment – 最も制約の少ない学習環境を与えられる 権利)が定められています。

制約がない環境とは、障害を持たない子供と同様の教育機会を与えられる権利、 つまりその子供に望ましいとされる健常児と同様の学習環境=普通学級で学ぶ 権利があるということで子供にあった統合教育を受ける権利が保証されているといわれています。

しかし障害の程度や子供の学習スタイルにより障害児クラスや養護学校が その子供にとってより学ぶ環境にあるということで親と学校側が同意すれば 普通学級以外のクラスに在籍し、その場合も学校にいる一日のうちの 一部の時間を統合教育を受けられるよう学校側は配慮する義務があります。

私の娘は合意のもと障害児クラスに在籍していますので 娘のIEPの書類には娘の障害により少人数で構造化された環境が 娘の学習スタイルに適しているため、LREに基づき障害クラスに在籍する、と記載されています。

また娘の場合は一日の学校時間のうち30%は普通クラスで授業を受けることと とIEPで定められていて(この割合は子供によって違いますがなるべく普通学級で 健常児と過ごすことが上記のLREによって義務付けられています) 理科、音楽、算数を普通学級(エイド付き)で受けています。

一般にいわゆる知的な遅れがない、もしくは知的な遅れが軽い自閉症児は エイド付き(もしくはエイドなし)で普通クラスに在籍している子供が多いようです。


ちなみに日本のような親の付き添いは認められていません。 この親の付き添いに関して法律によって規制されているかどうかはわかりませんが 必要ならばエイドをつけるサービスを学校側が提供しなければならない= 親が付き添いするということは前回に述べたFAPE(Free Appropreate Public Education 無償で適切な公教育を受ける権利)に抵触するためかと思われます。

ではこちらの学校が障害を持つ子供に対してインクルージョン(統合教育)に積極的かと言うとそういった印象はあまり受けません。

知的な遅れがありかつアカデミックスキル(学業成績)が遅れている子供、 もしくはビヘイビア(問題行動)が多くみられる自閉症児の場合学校区が プレイスメントで普通クラスをすすめることは非常に稀です。 そのため普通学級にエイド(ABAの訓練を受けた)付きで 在籍させたい親が裁判(調停・公聴会)に持ち込むケースも多くあります。

日本の場合子供の進学先の選択の最終決定権は親にあるとよく聞きますが (実際のところはよくわかりませんが) こちらではむしろ学校側の提示してきたプレイスメントを親が受け入れるケースがほとんです。もちろん同意しない場合上記のような裁判に行くことはできますが 要求が通るケースばかりではないため、決定権はむしろ学校側にある といってもいいと思います。裁判に行かない限りは学校側の提示した プレイスメントを受けるしかありません。

最近の傾向として教育費予算削減のため学校の統廃合、校長やスクールナース、 スピーチセラピストの学校をかけもち、 障害児クラスを減らしスキルの違う子供たちの混合障害児クラスを無理やりつくったり、 ほとんどの障害児クラスをなくし、普通学級に在籍させ、ある一定科目のみ子供に 取り出し授業をさせる形態にする学校区も少なくありません。

何のサポートもなく普通学級に障害児を送り込む方針と反発する親、 インクルージョンがすすむと一応歓迎する親(少数派かもしれません)、 反応はさまざまですがここカリフォルニアでは教育費予算カットのしわ寄せは間違いなく 子供たちに直撃しています。

(続く)

第51号 2008.04.10:
「FAPE-Free appropreate pub…

ロスの飯島さんからのレポート続編です。

どうやらカリフォルニアもパラダイスではないようです。
藤坂

第2回 FAPE-Free appropreate public education 適切な公教育は本当にFreeか?

2002 年娘が4歳8ヶ月の時アメリカ・カリフォルニア州に転居しました。
それ以降こちらの特殊教育サービスのお世話になっています。

エージェンシーによるABAプログラムがスタートしたのもこの時でそれから6年、 事情によりエージェンシーは3つめとなりますが現在も学校区負担のABAサービスを受けています。

近年学校区は教育費予算カットのためこのサービスを出したがらない傾向にあります。

学校区はエージェンシーによるin-home ABA(家でのABAプログラム)サービスや ABA セラピストのシャドー付き添いで学校に通うエイドのサービス (これもABAサービスになります)についてこういうサービスがあると 保護者に教えてくれることはまずありません。

また保護者がABAをリクエストした場合希望通りそのサービスの 提供について学校区がIEPミーティングの場で合意することもほとんどないようです。

特に義務教育(5歳)を過ぎた学齢期の子供の場合は顕著で ABA プログラムが簡単に提供されるサービスではないといえます。

ではこのサービスを受けるためにどういう手続きが必要かというと よい点(といえるかどうかわかりませんが)として IEP ミーティングで決裂した場合の調停の方法や手続きが一応整っているということです。

保護者はDue process Hearing(調停・公聴会)-学校区に対して調停、公聴会の手続きを取ります。この手続きに入る時に弁護士が必要になり多額の費用がかかります。 弁護士費用の一部をこの調停中に学校区から償還させることもできますがそれは交渉次第です。 このDue Process の手続きにまで進んで始めて学校区がABAサービスを提供するケースが 少なくありません。

この国は障害児教育法(IDEA – Individuals with Disabilities Education Act )をもとに Free appropreate public education(FAPE)無料で適切な公教育の権利が 定められています。しかし、学校区負担によるABAを受けるためには親が調停・公聴会や 裁判にいく費用、もしくは自費でABAを始めてそれを学校区に償還要求していくための費用が 必要だったりするケースが多いのです。

“無料で適切な公教育”にいきつくまでに多額の費用が かかり全く無料で受ける公教育という印象はすでにありません。

ちなみに私の娘のケースでこのABAサービスを獲得・維持するために調停・公聴会の手続きをしたことは幸運にもまだありません。(実際維持するために公聴会に行かなければならない状況になっても多額の弁護士費用を負担する余裕は私たちにはないと思います。)

すでに早期療育の年齢をとっくにすぎたうちの娘がなぜABAサービスを受けられているかというと一旦提供されたサービスをカットするのは学校区には難しいことであり 学校区はこの子供にこのサービスはもう必要ないと証明する必要があります。

一方的にサービスカットして公聴会に持ち込まれた場合(親が学校区を訴えた場合) それにかかる学校区側の弁護士費用とそのサービスを提供した場合にかかる費用 のどちらが安いか学校区は常に天秤にかけています。

もはやうちの娘にそのサービスが必要かどうかではなく提供したほうがコスト的に安いと 今年も判断したためでしょう。 このサービスがあることは非常に有難いことですが将来的にはこの州のABAサービスは どうなるのか非常に不安な思いです。

(続く)

第50号 2008.04.03:
「我が家のABA体験」

ミニマガつみき新シリーズ、会員有志によるリレー連載のスタートです。

昨年度と同じく、基本的に毎週木曜日の発行です。執筆担当者は毎月替わります。1人の担当者に第一週から第四週まで、計4回、執筆して頂きます。
内容は体験談、地域の報告、ABAの話など、様々なものになると思います。 みんな素人なので、そんなにうまい文章が書けるわけではありません。原稿料も0円ですから、つまらなくったって、文句言いっこなしです。

さて、今月はロサンジェルス在住の飯島みゆきさんです。飯島さんはこのつみきの会が発足した初年度(2000年度)に入会され、いままでやめずに残って下さっている12人のうちの1人です。一昨年、私がロサンジェルスに行ったときには、いろいろとお世話になりました。今回、その縁でお願いしたら、幸い、引き受けて下さいました。
では、前ふりはこの辺で。(藤坂)

LA 近郊在住の飯島と申します。 今回リレーエッセイの大役を藤坂さんから仰せつかりました。

私の娘は現在10歳10ヶ月、ABAは8年めになります。

ABA、スピーチセラピー、作業療法、Biomedical Treatment (ダイエットやキレーションなど)と一通りの治療は受けてきましたが 恐らくABAが娘にとって最も効果のあった治療であることは間違いありません。 しかし娘はABA歴は長いですが言語コミュニケーションと社会性に重度の障害が 残る自閉症です。

ABA による効果は認められますが劇的な改善を遂げた成功例ではなく むしろ反省点の多い療育ヒストリーです。
日本の会員の方が興味を持たれるお話しができるかあまり自信はありませんが これから4回どうぞお付き合い下さい。

第1回めは月並みですが我が家のABA体験です。
私は藤坂さんがつみきの会(の前身)を立ち上げた2000年の入会です。 当時ちょうど3歳になった娘の自閉症を確信して(診断は当時住んでいた カナダの病院事情によりもっと先になるのですが)日本語のABA情報を ネット上で探していた時、ある親御さんが運営していた療育サイトの掲示板で ABA の親の会立ち上げを呼びかけていた藤坂さんから会に誘って頂いたのが きっかけです。

この時藤坂さんにめぐりあえたのは幸運でした。
当時のカナダ(バンクーバー)には公費でABAを受けられるサービスが まだなく、自費でNYC、CA、シアトルなどにあるABAエージェンシーからスーパーバイザーを 呼び自分たちでセラピストを雇いABAプログラムを運営した親たちがその費用の償還を求めて 州政府に裁判を起こしているような状況でした。

娘の自閉症がわかった時点で私たちもエージェンシーと契約しABAプログラムを始めるべき だったのですが(そしてそうしなかったことを今でもとても後悔しているのですが) 当時の私たちには専門家の指導のもとABAを行う環境も余裕もありませんでした。

そこで自分たちでABAプログラムを始めることにしたのが娘が3歳3ヶ月の時です。

娘は2歳7ヶ月で一旦すべての言語を失ったいわゆる折れ線型の自閉症で ABA を始めた当時無発語、言語理解ゼロ、模倣能力ゼロの状態で 当時のspeech pathologist のアセスメントによると 受容表出言語ともに生後3ヶ月レベルとの結果がでていました。

セラピーは夫と分担して約週25時間、藤坂さんから送って頂いた ABA のすすめ方の資料と”Me Book”、キャサリンモーリスの “Behavioral Intervention for Young Children With Autism”をもとに プログラムをスタートしました。

当時のことはよく覚えていないのですが とにかく私の娘は何かを習得するのに非常に時間のかかる いわゆる重度児で単純動作を真似て強化子がもらえるというコンセプトを理解するまでに 約3週間、単音模倣の意味-こちらが単音を発して娘が真似すると いう概念を理解するのにさらに約1ヶ月かかった記憶があります。 こういったスローな成長、しかし考えてみるとこの8年間で 娘にとっては最も成長を遂げたセラピーが約1年半続きました。

(続く)