第57号 2008.05.23:
「セラピーに協力していただいた子供達」
佐々木さんの連載、最終回です(来週はお休みします)。
佐々木さん、貴重な体験談、ありがとうございました。
☆ ○ ◇ ☆ ○ ◇
今回は娘のセラピーに協力していただいた子供達について書こうと思います。
療育を進める上で、子供達にはとても助けられました。
いつも娘につき合ってくれる子供達に感謝の意味も込めて、ちょっとその話をしたいと思います。
娘の療育のまだ初期の頃に、単音模倣が上手くできなかった時、その状態を打開してくれたのは子供達でした。
その当時の娘は、発声することはあるのですが、こちらが「あ」と言った時に、真似して「あ」と言うことが理解できず、強化のお菓子を目の前にしてぐずぐず泣いていました。
ある日、お兄ちゃんのお友達が家に遊びに来た時、試しにお兄ちゃん達を娘と一緒に並ばせ、端から順番に音声模倣をさせてみたのです。
もちろん年上の健常児達ですから、全員難なく私達の指示どおりに模倣し、ご褒美にお菓子をもらいます。それを順番にやっていくと娘の番の時に、今まで何回やってもできなかった模倣が一発でできるようになりました。 子供達と一緒に試行させる事で、子供達が娘のモデルとなり、自分が何を求められているのかを理解したようでした。
般化も子供達に手伝ってもらっていました。
娘ができる動作模倣や音声模倣が増えてきた頃に、お兄ちゃんの友達にお菓子を渡して、「何か真似させて、真似ができたら『上手い』と言ってお菓子をあげてね。お菓子は一緒に食べていいよ。」と言っておくと、子供達が即席の立派なプチセラピストになって、協力してくれました。
子供達もやり方さえわかれば教える事が楽しいみたいで、子供達の方から「今日は何を教える?」と聞いてきてくれました。
その他にもジェスチャーゲーム(娘のレベルに合わせた簡単なもの)や、お化け屋敷(グループに分かれて脅かしあいっこする)ごっご、かくれんぼ、しっぽ取り、トランプのばば抜き、椅子取りゲーム、ハンカチ落とし、伝言ゲーム等で、よくお兄ちゃんのお友達に手伝ってもらいました。
お兄ちゃんはお友達への受けがよいのか、親に似て安請け合いなのか、お友達がよく我が家に遊びに来ます。
初めのうちは娘のセラピーの邪魔になると思っていたのですが、娘の良いプチセラピストになるとわかってからは、とても助かっています。
お友達も小学校4年生くらいになると、娘を一緒に遊びに入れれば、ママの機嫌が良くなることを察して、お友達のほうから「○○ちゃん一緒に△△しよう」と誘ってくれる事が多くなりました。
年中さんの運動会の練習をする時には、子供達には大変お世話になりました。行進の練習や、ダンスも手伝ってもらったのですが、特に助けてもらったのはリレーの練習でした。
初めて幼稚園でやったリレーの練習では、娘が急いで走ると言うことがまったくできず、私達は頭を抱えていました。
先生が伴走して引っ張ってもらえれば速く走れるのですが、先生が手を離したとたん、歩くような速さになってしまいます。
その後の全体練習の時にも、娘の走る順番で他のクラスのお友達につぎつぎと抜かれて、娘がクラスの足を引っ張っているのを見ていると、つらいものがありました。
リレーの練習は1人で走る徒競走とは違い、教える手順の多くの部分で人数が必要です。バトンの受け渡しや、バトンをもらったら走る事は、個別で教えることができるのですが、チームとして勝ち負けにこだわって一生懸命に走るということを教えるにはどうしても人数が必要です。
登園日は、早く登園して運動場で遊んでいる園児や、帰りのバス待ちの園児達に協力してもらったり、休日は娘の従姉妹達やセラピストさんを動員して、公園で走る練習をしたり、運動会直前まで何回も練習しました。
子供達の協力のおかげで、本番では上手に走り抜くことができて、同じクラスのお友達からも「練習の時よりも速かったよ」と声を掛けてもらいました。
また、娘の従姉妹達に、ソーシャルスキルを教えることも手伝ってもらいました。
挨拶や遊びへの誘い、お友達に断られた時の振る舞い、お友達が使っている玩具等を借りる、反対に使っている玩具等を貸して欲しいと言われた時などへの対応の仕方です。
単に「いいよ」や「だめ」と単純に応えるだけではなく、
・遊びの誘いを断られた時などに、「じゃあ、○○しよっと」と切り替えができるのは良いのか悪いのか?
・「赤色鉛筆を貸して」と言われたことに対して、「りんご(の絵を)描いたらな」と応えることが良いのか悪いのか?
・そのリンゴの絵を描いた後に「りんご(の絵が)描けた。次はさくらんぼ(の絵を)描こっと」と言うのは良いのか悪いのか? などです。
それらの状況を従姉妹達に個々に演じてもらい、「さあ、これは良い子かな?悪い子かな?」とクイズ形式にしたものホームビデオに録画して、娘に見せました。
それから同じ状況を作り、従姉妹に混じって実際に娘にやらせてみました。
娘と仲がいい同じクラスのお友達の1人にピアトレーニングとして、毎週遊びに来てもらっていました。
とりあえず最初はピアがしている遊びを真似させていました。
ピアがブロックで遊べばブロックで。お人形で遊べばお人形で遊ぶようにプロンプトしました。ピアの遊びのなかでしゃべる言葉も真似させました。 ピアがお人形を使って「トントン」を階段を登らせれば、娘にも同じように人形を持たせ階段で「トントン」とさせるのです。
また、大人の主導で遊ぶ時間も作りました。例えば幼稚園でするような制作や、テーマを決めて大きな画用紙に一緒にお絵かきしたり、自分が描いたり作ったりした作品を発表しあったり、お友達の発表を聞いてコメントする練習などです。
その他は、お菓子を一緒に作ったり、一緒にお風呂であそんだりしました。そうするうちに、子供達だけで遊びをして楽しむ時間がすこしずつですが増えていきました。
また、セラピストさんのお子さんにも協力してもらいました。
お子さんは娘より3才年下なので、娘が相手に合わせることができるようにお願いしました。どうしても年上や同年代の子供達は娘に合わせがちになるので、それとは逆の状況で娘が相手に合わせる練習をしました。
これがなかなか初めは上手くいきませんでしたが、最近では結構、相手に合わせたりできるようになってきました。最近は二人して悪い事ばっかりしています。
参考までに、同年代やと年下のお友達と遊ぶ時は、以下の項目で記録を取っていました。
1)ピアの使っている物をピアの同意なしで取らない
2)ピアに自分の物を分け与える
3)ピアの誘いや問いかけに応える
4)ピアに自分からポジティブに働きかける
5)他人の領域を侵さない
どの子供達にも言えることですが、いろいろ手伝ってくれた後、特別なご褒美があるわけではないのに、「ありがとう。凄く助かったわ。」の言葉だけで、次も喜んで手伝ってくれます。ただそういう強化が、娘にはあまり効かないのが、悩みですが・・・
以上、思い出しながら書き連ねたのでまとまりのない物になってしまい、皆様の参考にならないことが多かったかもしれません。
また何かの機会やご要望がありましたら、私達のつたない経験でよければ紹介したいと思います。 それでは、皆様の幸運を祈ります。
佐々木
第56号 2008.05.15:
「シャドーレポート」
佐々木さんのシャドーレポート、三回目です。
♪ ☆ ♪ ☆ ♪ ☆ ♪
幼稚園の通園中は、藤坂さんや、先輩会員さんに多くのご助言やアイディアを頂戴いたしました。年長編ではその中のほんの一部になりますが、幼稚園に関することがらを紹介したいと思います。
娘は年長になっても先生のお話しを聞いたり、お友達からの話しかけに反応するのが苦手でした。(今でも苦手ですが・・・)
初めのうちは、注意力の不足が原因と考えて課題を進めていたのですが、なかなか状態が良くならず、悩んでいた時にいただいたアドバイスがあります。
・健常児と娘との相違点を見つける。健常児の子が反応できて、娘が苦手な反応を拾い出し、状況等を記録しておく。
・特に娘が理解してなさそうな単語や言い回しを記録する。それを家庭でフォローアップする。
・園では、先生のいろいろなパターンの話しかけや、特に明確な指示ではないものに反応できるようにプロンプトする。
年長さんになると、先生の言葉が年中さんの時に比べて難しくなってきます。年中の時のような丁寧で直接的な言葉ではなく、指示の時にも間接的な表現等が増えてきます。健常児のお友達の言葉も高度になってきます。
娘の調子が上がらないのは、言語の理解とコミュニケーション能力の不足も一因となっていて、それがなお注意力を悪くしているいことがわかってきました。
まずは、先生やお友達が話す言葉で娘が反応しない、または、できない物を拾い出し、その原因を考えました。
例えば先生が班分けの時に「ひとりぼっちの子がいるよ」という言葉に反応できなければ、ひとりぼっちの意味やその子を誘いなさいと言う間接的な意味が理解できていないかもしれませんし、お友達が「俺ん家、10歩でかえれるで~」に反応できなければ、家が近いということや自慢していることを理解していないかもしれません。
これらのように、反応しない要因を調べるために、以下のように分類して整理しました。
・注意不足(あとで同じ事を言うと聞き取れる内容なのに反応しなかった)
・表現の理解(婉曲、倒置、主語の省略) ・語彙の理解(単純に単語の意味がわからない)
・イントネーションの違い ・概念の理解(時間や空間等) ・長文の内容の聞き取り能力 ・応答の仕方がわからない
・その他
いざ拾ってみると、あるわあるわで拾い出し表がすぐにいっぱいになり、たくさんの言葉に反応できていないことに愕然としました。 拾い出した言葉に対して優先順位を決め、少しずつですがパターンを変えながらで受容と表出に取り組みました。(今も消化できていないものがあります・・・)
その時にわかったことなのですが、ある程度言語能力がついてきているのに、普段の家庭での娘への話し言葉が、ついついセラピー口調で、娘に理解しやすいような単調なものになってしまい、一方通行な会話をしがちでした。
また、娘の不十分なボキャブラリーでの話しかけにも、娘が何を言いたいか、したいかを無意識に理解して反応してしまい、適切な言葉を引き出す機会を逃していました。 この事は、娘にとっては都合がいいことなのですが、逆に、娘の聞き取りやコミュニケーションなどの言語能力を広げることに対して妨げとなっていたようです。
園児の話題や流行もリサーチしました。知らないことに対しての興味が薄いこともあり、それゆえ園児の話題や遊びについて行けないことが多々ありました。
多くの園児が見ているTV番組を見せたり、キャラクターやギャグ等を教えたりして、園児の輪に入りやすいように心がけました。特にギャグは会話力にあまり頼らなくて良いので、娘も楽しんでお友達と遊ぶことができました。
基本的な会話にも力を入れました。他人からの話題に、あいづちやコメントで応え、続けて適切な話題や質問を返す等の会話をスクリプト形式で練習しました。
ママ:「お買い物に行く?」
娘 :「うん、行きたい。グミ買いたいな~」
ママ:「ママもお菓子買おうかな~」
娘 :「ママ、何のお菓子にするの?」
ママ:「チョコボールにしようかな」
娘 :「それ、私も好き」
これらは話題やコメントする場合や質問をする場合など、パターンを設定して試行しました。
話題は娘の興味のあるものを中心に設定しました。 年長は就学が近づいていたこともあり、焦ってばかりで課題が絞りきれなくて、思い描くような結果が出ず、よく夫婦でもめました。
今でも痛感するのが、基礎力の重要さです。基礎となる課題は中途半端にせず、継続的に手を変え、品を変え、場所を変え、言い方を変えてもできるかを確認して進め、同時に般化をしていかないと、園の活動はそれらの総合的なスキルを求められるので、なかなか結果が伴わないことが多々ありました。
多くの課題を設定して内容が手薄になるようなら、基本的な内容にしぼって集中して進めていく方が結果的に近道かもしれません。
(つづく)
第55号 2008.05.09:
「シャドーレポート」
佐々木さんによるシャドーレポート第2回です。
☆ ♪ ☆ ♪ ☆ ♪ ☆
年少さんの三学期からのプレ通園がおわり、春に年中クラスへの正式な入園となりました。
入園式の後、教室でお父様お母様方に、自閉症という障害のこと、園生活で娘の不足しているスキルを個別に教えていくために、親が介添えにつく必要があることを説明し、御理解をいただきました。幸いにも皆さん好意的に話を聞いていただき、後で娘にどう接すればいいのかを聞いてくれる方までいらっしゃいました。
本格的に、娘の幼稚園での生活が始まりました。とはいっても、健常児と同じ時間を園で過ごすのではなく、行事の有無にもよりますが、週に3日程度から始めました。まずは園での基本的なルーチンをこなすことに集中しました。当時チェックしていた事項です。
登園前
・決められた時間内に朝食を食べる
・制服へのお着替え
・持っていく物を自分で探して持つ
・「いってきます」のあいさつ
登園時~
・教室に行くまでに先生や園児へのあいさつ
・自分の教室まで行く
・上履きに履き替える
・担任の先生へのあいさつ
・コップ、タオル、カバンを各所定の場所におく
・お帳面に出席のシールを貼る
・制服をたたんでスモッグに着替える
・手洗い
午前中の活動
・名前を呼ばれたら返事をする
・体操の時間
・お歌の時間
・お話を聞く態度
・制作その他の活動・etc
昼休み
・昼食のテーブルセッティング
・手洗い
・食器の準備
・食事中の態度
・食器の後片づけ
・歯磨き
午後の活動
・制作その他の活動・etc
上記の内容等を、一人でできた、プロンプト(指さしあり、声掛けあり、身体的補助あり)と段階を分けてチェックし、できない内容は家に持ち帰って練習しました。
登園しない日は通常のセラピーの内容と平行して進めました。担任の先生には、アイコンタクトの徹底と、出した指示の完遂をお願いしました。歌や制作に対しても事前に先生にお歌をカセットに吹き込んでもらい、課題を教えてもらって予習しました。その甲斐あって歌もお友達と一緒に歌い、制作も楽しんで取り組んでいました。
ある程度、想像していたのですが、いざ通園してみると、できないことだらけでへこみました。家ではできているのに園ではできないというものがたくさんありました。何で園ではできないの!と何回も切れそうになりました。
ある時、担任の先生が私の怒りのオーラを察して、娘の反応を上手に引き出していただいたことがありました。その時は恥ずかしさと、自分のふがいなさに、年下の先生に抱きついて泣いてしまいました。
そんなことがあってからは、切れそうになる前に先生に任せ、教室から出て外で深呼吸をするようにしました。
なかなか我が子に対して冷静に対処するというのは難しいのですが、通園途中から気を付けようと思ったことは
・何もかも一度にやろうと考えず、ひとつひとつ確実に解決していくこと。
・普段の課題は異なる状況下で、パターンを変え、言い方を変え、般化すること
シャドーに関してはつみきブックや過去ログに載っているので詳細は割愛しますが、我が家の3箇条は
1.観察:冷静に観察して、できない原因や、不適切な行動の要因を探ること(これが一番難しい。わかっていてもなかなかできませんでした。今でも・・・)
2.強化:獲得中の課題への強化や、適切なふるまいができている事への強化
3.補助:自発を促すように適切で最小のプロンプト
です。
メーリングでも他の園児との係わり合いの話題がありましたが、やはり同じようにシャドーとして入ると甘えて寄っている子がいます。
園児の話を聞いているうちに娘がいなくなる・・・初めのうちはたくさんありました。そんなときに、担任の先生が「○○ちゃんのママに言わずに、先生に聞いて」と声を掛けてくださったり、副園長先生からも「他の園児の事は気になさらずに、もっと佐々木さんの思うようにされて良いですよ」と言葉をちょうだいして吹っ切れました。 園児が「○○して遊ぼう」と言ってきても、娘ができそうもない遊びの時は「おばちゃんは遊びに来てるんとちゃうねん」と言い、できそうな遊びなら「○○(娘の名前)がするって言うならおばちゃんもするから誘ってきて」というようにしました。
教室の後方で娘を観察している時に、園児が横に座ろうとするなら、「もっと先生の顔が見えるところに行きなさい」とお尻を押しやり、わからない時やできない時に頼ってきても、「先生に聞きなさい」、「先生に言っておいで」と流しました(水筒を開けたり、ボタンをとめてあげる事くらいはしましたが)。 その代わり、娘に話しかけてくれたり、遊びに誘ってくれた子には、頭をなでたり、「○○(娘の名前)に話しかけてくれてありがとう。助かるわ」と言って、強化しました。
そうすると、上手に娘の気を引いてくれる子が増えました。こうやって、担任の先生より目立つこともなく、シャドーとして思うように動けるようになりました。
(つづく)
第54号 2008.05.02:
「シャドウまでの道のり」
ミニマガつみき連載二番手は、大阪府在住の佐々木さんです。
佐々木さんは、ご夫婦で熱心にABA療育に取り組んでこられた方です。今回は、幼稚園のシャドー体験を中心に書いて下さるようです。
原稿は昨日のうちに頂いていたのですが、私が目を通すのが遅くなり、金曜日になってしまいました。申し訳ありません。(藤坂)
関西在住の佐々木と申します。
トップバッターの飯島さん、お疲れさまでした。飯島さんからバトンを受け、転けずに第三走者にバトンを渡せるように5月いっぱい頑張りますのでよろしくお願いします。
私達の娘は今年からなんとか小学校に入学することができました。しかしながら、まだまだ社会性等に不足があり、セラピーは今もなお継続しております。幼稚園の間は、年長の三学期を除き、終日母親がシャドーにつきました。その時のことを振り返って、今回から3回に分け、シャドーへの道のり、年中、年長での出来事を綴っていきたいと思います。
〈シャドウまでの道のり〉
私達は娘が自閉症とわかった2歳半の時からセラピーを開始しました。
セラピー前の状態は、名前を呼んでも反応がなく、意味のある発語は消え、喃語ばかりで、歯ぎしりがひどく、ただテレビに貼り付き走査線を眺めているような状態でした。セラピーを開始し、なんとか軌道に乗りだした頃、健常児なら幼稚園の入学を考える時期がきました。
セラピーが進み出したとはいっても、やっとモーリスプログラムの初級の半ばにさしかかった頃で、まだまだ集団の中に入れるような状態ではありませんでした。入園は年中からと決め、年少の時期の一年間をセラピーに専念することに決めました。
セラピーを始め一年くらいを過ぎた頃でしょうか、いすに座ることから始めたセラピーは、順調に進み、周りを見て模倣し、簡単な指示であれば従えるようになっていました。
私達はこのあたりでだんだん欲がでてきました。そろそろ健常児の中に入れて学ばせてみたいと思うようになってきたのです。たぶん健常児と比べると社会性の面で劣るだろうし、シャドー付きで通える幼稚園が近くにないものか、と漠然と考え始めていました。
娘が3歳6ヶ月になった5月のある日のこと、途中からでも入園でができるかも、と急に思い立ち、娘の3つ年上のお兄ちゃんが通っていた幼稚園に電話を入れました。お兄ちゃんの時に園の行事の役員もやっていたし、園の先生方にも面識がある。お兄ちゃんの通園時に一人だけお母さんがついていた園児が在園していたことも思い出しました。
電話には副園長先生が対応してくれました。副園長先生には簡単に娘の事情を説明し、この時期からの途中入園の要望をしました。その場では答えは聞けず、暫く経ってからの副園長先生の返事はこうでした。
「年少組の一学期はまだ母親が恋しい時期なので、母親が幼稚園に入ることは難しい。また、二学期は運動会等の行事が続く間は担任も対応できない。園児と担任の信頼関係が築かれ、落ち着いたクラスがでてきたら、その時に連絡を入れます。」
がっかりしました。しかし、ダメ元でしたし、副園長先生のおっしゃることはもっともな理由だったの納得しました。シャドーに入ることを断られたわけではないし、年中からはシャドー付で入れそうだと感触をつかんだので、通園はこの幼稚園と決め込み、その時がくるまでこれまで通りに娘のスキルアップに励むことにしました。
市報などで“親子保育園体験クラス募集”との記事を見つけては通いました。
子育て支援センターで催されている子育てサークル(体操や紙芝居、簡単な制作活動)にも不定期で参加したり、家では近所の娘と近い年頃の子を集め、幼稚園を退職された先生に来てもらって、模擬的な園の活動を練習したりもしました。
しかし、この頃は、私達は療育の落とし穴(?)にはまっていました。娘は同い年の健常児の反応の速さに全くついていけませんでしたし、お友達と相互作用のある関わりも希薄でした。
今考えるとスモールステップで簡単なことから徐々に関わらせて強化していけば良かったのに、当時の娘にとっては難易度が高い要求をして、遠回りをさせていたように思います。デスクで課題がこなせるようになっただけなのに、先に進むことばかり考えて、そのうち結果がついてくるだろうと甘い考えをしていました。
年中からの入園手続きをすませ、年の瀬を迎えようとした頃、園から一本の電話が入りました。
「落ち着いたクラスが出てきて、担任の了解も得ました。一度、担任の先生と打合せされてみてはどうでしょう?どこまで園がお手伝い出来るかわかりませんが、一緒に頑張りましょう。」
待っていた電話でした。
冬休み明けすぐにこの日のために準備してきた資料を携え、娘を連れ、緊張の面もちで園に打合せに向かいました。 園では副園長先生と、娘の担任となる先生が待っていました。うまく説明できるのか、思いが伝わるのか、緊張しながらも夢中に説明しました。説明したのは以下の内容です。
・自閉症とは何か
・自閉症の特徴の詳細
・娘の状態
・今までの療育法
・ABAの基礎的な説明
・介添え(シャドー)に入る意味
・誓約事項
思い切ってABAの事も打ち明けました。特に、シャドーに入る意味は強調しました。当時の一文です。 「幼稚園にお世話になる目的は、お手本となる健常児達の中で生活することによって、集団のなかでの行動に必要なスキルを会得し、不足している社会性を伸ばすことです。
しかしながら、娘の現状の状態では、健常児のように、先生のお話を聞き、お友達と自分から進んで遊ぶというような能力が足りませんし、なかなか自然には身に付いてはくれません。
そのためにはわが子の状態を観察し、適切な行動をうながし、不適切な行動を排除するための介添え(シャドー)が必要なのです。(本来は親以外の専門的な知識を持った人間が理想なのです。)
また、不得意な活動を見極め、効果的にフォローアップするためにも、必要と考えています。」
一通り説明が終わった時、全職員に持参した資料を見せて良いかとの質問がありました。後から考えるとおそらくプライベートなことを周知することに対しての質問だったのかもしれないのですが、先生方が同じ認識と対処をしてくれる事を期待し、了解しました。
説明の甲斐あって(?)、私達の要望は園に受け入れてもらえました。
その後、プレイルームに案内され、楽しそうに遊ぶ娘の姿を見て、緊張が解けたのと、先生方の暖かい励ましの言葉に、夫婦して目頭が熱くなりました。 このようないきさつを経て、年少三学期からのシャドー付の通園が始まりました。まずは環境に慣れるために、週に一回の登園から始めました。正式な入園までの短い期間ですが、年長まで続く長いシャドー付き通園の始まりでした。
(つづく) 次回をお楽しみに。(編)