第101号 2009.04.30:「綾ちゃんレポート」
4 月は木曜日が5回あるので、第2週をすっぽかした代わりに書いてみようと思います。今日は久しぶりに娘の近況報告「綾ちゃんレポート」です。
<綾ちゃん、中学2年生になる>
うちの綾も早いもので中学2年生になりました。相変わらず、親の付添い付きで、普通学級に元気に登校しています。
今は亡きスクールMLで、昨年末に、最近反抗行動や儀式行動が急増して、ピンチだとお伝えしました。
しかし正月休みとその後のインフルエンザ休校でゆっくり休めたせいか、あるいは休みを利用して親が締め直したせいか、3学期に入ってから、どちらもかなり落ち着きました。
2年生に入っても担任が変わらなかったので、あまり大きな変化はありません。しかしクラスのメンバーはガラッと変わりました。
1年生のクラスはとにかくにぎやかで、授業中もうるさくてお祭り状態でしたが、2年生になると打って変わって、とても静かになりました。真面目な子が多いからではなく、寝る子が多くなったのです。
あからさまにうちの子を嫌がる子はほとんどおらず、まずは平和に過ごせています。
ただこだわりはますます高じてきて、だんだん家内ではコントロールできなくなってきました。
例えば、家庭でのことですが、国語の問題集をやらせているとき、家内が正しい答えを教えても、あとで問題集についている別冊の解答を見て、一言一句その通りでないと気がすみません。せっかく書いた答えを消して、模範解答を書き写そうとします。家内がやめさせようとしても聞きません。
いったんは制止しても、家内のすきを見てノートを取り出し、家内が書かせた答えを全部消して、解答をそのまま写しては満足しています。
学校でも、先生が黒板に書いた文字をそのままノートに取ることに執着します。
今日の理科の時間のことですが、妻によると、先生がある単語(例えば「火成岩」)をいったん書いて消し、もう一度同じ文字を書きなおしたそうです。
すると綾もいったん「火成岩」とノートに書いてから、それを大きくばってんを書いて消し、その横にまた「火成岩」と書いたそうです。家内がやめさせようとしても聞き入れません。あくまで制止しようとすると、綾が泣くか、大きな声で何かを言いだすので、家内もあきらめざるをえないのです。
こんなにこだわりがきつくなったのは、小学校の時にあまりに家庭学習をやらせすぎたからではないか、と思うのですが、そんなことを言うと、妻が機嫌を悪くするだけで、状況は一向に改善しません。ですから私にできることは、帰宅後、家内の愚痴を聞いてやり、家内の怒りから綾をかばってやるだけです。
家内を癒し、娘を癒し、私は誰に癒されたらいいのでしょうか(最後はぐちになりました)。
藤坂
第100号 2009.04.25:「カナダオンタリオ州のIBIの結果報告論文」
記念すべき100号なんですが、私はなんだかこのところ次から次へと仕事の波が襲ってきて疲れ気味。あまり沸き立つ気分にはなれません。でも、タウリン2000 を飲んで元気出そー!
おととい、カナダオンタリオ州のIBIの結果報告論文の入手をお願いしたところ、さっそく送っていただけたので、きょうはお礼がてら、その内容を紹介します。
Perry A. et.al. Effectiveness of Intensive Behavioral Intervention in a large, Community-Based Program.
(2008) Research in Autism Spectrum Disorders, vol. 2, Issue 4, 621-642.
オンタリオ州はカナダ最大の都市トロントや首都オタワがあるカナダ最大の州。
ここでは1999年から全州規模で、集中行動介入(IBI、Intensive Behavioral Intervention)プログラム、つまりABA早期集中療 育プログラムが行われています。
(カナダでは93年のモーリスさんの本とその後の米国での急速なABA普及の影響を受けて、90年代末から急速にABAが広まり、現在、2つの準州を除くすべての州で何らかのABA早期療育が公的機関の関与により実施されているとのことです。これはこの論文に書いてあることではなく、カナダの新聞報道や判決文などに依ります)
オンタリオ州のIBIプログラムは州政府の援助により、無償で受けることができます。一度におよそ800人の子どもがこのサービスを受けています。論文の著者によれば、これは世界最大規模のABA集中療育プログラムです。
同プログラムでは、療育は主にセラピストが担います。家庭で行う場合もあれば、地域のセンターで行うこともあります。セラピストは全員、短大卒か大卒レベルです。7~12人のセラピストごとに、1人のシニアセラピストがついて、指導します。3~4人のシニアセラピストごとに一人のクリニカルマネージャーが付きます。
子どもには週20~40時間のABAに基づく療育が行われました。親に対するトレーニングも行われました。親がフォーマルなABAセラピーに参加することは義務付けられませんでしたが、目標設定に参加することと日常生活に般化させることが親に求められました。
オンタリオ州のIBIプログラムの特徴の一つは、Verbal Behaviorが取り入れられていることだと思います。この論文にはIBIプログラムで利用したテキストとして、ロバースの本などと並んで、Sunberg & Partingtonの本が紹介されて いました。
この論文は、2000年~2006年初までにこのIBIプログラムの初回検査と終了時検査の両方を受けた332人のデータを報告しています。
検査の内容は、
①CARS これは自閉症の度合いを調べる尺度で、数字が大きい方が重くなります。
②IQ 知能検査によって出します。80または85以上が正常域と言われます。
3ヴァインラント社会適応度尺度 これはよく知らないのですが、100が平均らしいです。コミュニケーション、日常生活スキル、社会性、運動スキルの4つのジャンルがあります。
です。すべての子どもがこれらのテストを受けたわけではなく、テストによって人数のばらつきがあります。
この論文では、初回検査の結果から、子どもたちを、
①「良好」グループ(78人、26%) 知能や社会適応度が比較的高い。ヴァインラント社会適応度尺度(ABC)60以上。平均IQ47。ただしIQ85以上は2人だけ。
②「中程度」グループ(126人、42%) ABC50-59。平均IQ31。
③「重度」グループ(96人、32%) ABC49以下。平均IQ23。 の3グループに分けて、それぞれのグループの再検査の結果を報告しています。
<結果>
(1)CARS(自閉度)
IBI の結果、CARSの数値はどのグループについても統計上有意に改善しました。
3 グループの平均値は36.1→31.1へと改善しました(p<.001)。
その結果、初回のCARS検査で、軽度から中度の自閉症とされた145人のうち、59 人(41%)がCARSの数値が「非自閉症(自閉症ではない)」圏に移行しました。
3つのグループを合わせると、事前検査ではCARSで「非自閉症」圏に入る子は8.7%に過ぎなかったのに対して、事後検査では275人中94人(34%)が「非自閉症」圏になりました。
(2)IQ
IQ(知能指数)は全員が受けたわけではないのですが、受けた全員(129人)の平均値は47.4から59.3へと統計上有意に上昇しました。特に「良好」グループで伸びが著しく、62.1→82.7へ20ポイント増加しました。「中程度」グループでは、43.4→53.7と10ポイント増。「重度」グループでは 31.1→33.1とほとんど変化がありませんでした。
(3)ヴァインラント
この尺度のうちコミュニケーションの指数が統計上有意義に改善しました。
(4)総合
著者らはこれらの検査を総合した結果、子どもたちを次の7つのグループに分けました。
①ほぼ正常 10.8% (IQまたは社会適応度尺度で正常域かつCARSで非自閉症圏)
②顕著な改善 14.5% (IQまたは社会適応度尺度で10ポイント以上の改善かつCARSスコアの大きな減少。しかしIQが正常域には達していない)
③臨床的に意味のある改善 30.4%
④自閉度の軽減 10.5%
⑤わずかな改善 8.4%
⑥変化なし 18.6%
⑦悪化 6.8%
このように約10%の子どもが、ほぼ正常域に達しました。これはロバースらのEIBI に比べると少ないですが、地域コミュニティで実施する大規模プロジェクトとしては画期的である、と著者は説明しています。
以上です。
藤坂
第99号 2009.04.17:「攻撃的な子ども」
おお、いつのまにか100号の大台を迎えようとしていますね。100号を私が書けるというのは、いいなあ。
<攻撃的な子ども>
さて、きょうは、セラピーをしようとすると親やセラピストに攻撃してくるお子さんに対する対処法です。
先日、久しぶりにそういうお子さんに出会って、かなり腕をカジカジされたので。
ときどき、こんな風に攻撃的なお子さんがいます。
椅子に座らせてセラピーをしようとすると、指示に従うことを拒んで立とうとし、立たせてもらえないと急に反抗的になって、泣きながらこちらの髪の毛を引っ張ったり、服を引っ張ったり、手を引っ掻いたり、腕をかんできたりします。
そういうときは、私は椅子に座らせたまま、腰のあたりをしっかり両腕で押さえ、マグネットをボードに貼る、などの簡単な課題を一試行させては立たせ、また30秒くらいしたらすわらせて、一試行させたらまた立たせる、ということを繰り返します。
そうするうちに収まってくる子が結構います。
それでは埒があかない場合は、椅子に座らせて両腕で腰のあたりを押さえたまま、攻撃してきてもひたすら避けるか、避けられなかったら、無表情で痛みに耐えて、攻撃行動を消去します。収まるまで、長い時は1時間かかります。 このとき、太ももを押さえる手に力が入りすぎると、太ももを走る大動脈を圧迫してしまうので危険です。
ところが、この向かい合った状態で攻撃行動をひたすら消去する、という方法は、女性だと、手のリーチが短いので、子どもの攻撃を十分避けることができません。服を引っ張られたり、髪を引っ張られたりします。
また立ち上がろうとするところを腕で押さえるのですが、お母さんではやはり力が足りなくて、押さえきれないことが多いです。
先日も、最初は椅子に座らせて向かい合った状態で両腕で腰を押さえ、攻撃行動を消去していたのですが、なかなか攻撃が収まらず、ずいぶんかまれたり、引っかかれたりしました。
そこで途中からやり方を変えました。子どもをうしろから抱きかかえるようにして、床にペタンと座ってしまうのです。足はハの字に開いて、子どもの腰に後ろから左腕をまわして、しっかり引き寄せます。子どもにも足をハの字に開かせます。
その状態で、マグネットをボードに貼らせる、お椀に積み木を入れる、3Dマッチングなどの簡単な課題をさせます。一試行できたら、すぐに解放します。
この方法に切り替えると、私の顔が視界に入らなくなるせいか、攻撃行動が急に収まって、静かに指示に従えるようになりました。
この方法を取ったのは、これで二度目ですが、どちらも結果がよかったので、参考までにご報告しておきます。
藤坂
第98号 2009.04.02:「ピストルの撃ち合いごっこ」の教え方
「ミニマガつみき」編集長の藤坂です。今月は誰も連載を担当する人がいなかったので、久しぶりに私が自分で書くことにします。
今日は、先日MLで尐し話題になった、「ピストルの撃ち合いごっこ」の教え方をご紹介しましょう。
<指鉄砲を撃ち合う>
まず相手が指鉄砲で「バーン」と打ってきたら、「バーン」と撃ち返すことを教えます。
これは「やり返し」の方法を取ります。
「やり返し」は動作模倣と似ていますが、相手が自分に向けて行った動作を、そのまま相手に向かって行うところが違います。
例えば、大人が「こうして」と言いながら子どもの肩をたたくと、自閉症のお子さんはたいてい自分の肩をたたいてしまいます。
これを、大人が子どもの肩をたたいたら、子どもに大人の肩をたたかせるようにするのです。
やり方は、大人が「こうして」と言いながら子どもの右肩をたたき、すかさず大人の左肩を差し出してやって、子どもの右手を取り、左肩をたたかせ、強化します。これを繰り返しながら、徐々にプロンプトをフェーディングします。
肩をたたき返す、ができるようになったら、ほかにもいろんな動作のやり返しを教えます。そのひとつとして、指鉄砲で相手を撃つことを教えればいいのです。前提として、指でピストルの形を作る動作模倣はあらかじめ教えておかなければいけません。
<撃たれたら倒れる>
先日の神戸セラピスト勉強会でご指導したお子さんは、このピストルの撃ち合いは上手にできるお子さんでした。しかもお子さんが撃った時に大人が「やられた」と言いながら倒れてあげると、とてもうれしそうでした。
しかし彼は自分が一方的に撃つばかりで、大人が彼を撃っても倒れようとはしませんでした。
そこで、「相手が自分を撃ったら、倒れること」を教えることにしたのです。
やり方はいつもどおり、「スモールステップ+プロンプト+強化」です。
いきなり撃ち合いの中で「倒れて」と指示するのは、あまりいいやり方ではありません。子どもは撃つのに夢中で、指示を聞かない可能性が高いからです。
そこで、しばらくピストルごっこは中断して、「倒れる」という行動だけを練習しました。
子どもを立たせておいて、「こうして」と言いながら倒れて見せ、まねさせます。毎回、お菓子か何かで強化します。
上手になったら、今度は「やられた」と声を出しながら倒れることを、これもやってみせてまねさせます。
次に動作模倣ではなく、「やられた、して」という指示(「して」は小声で言います)で、「やられた」と言いながら倒れることを教えます。
ここでしっかり強化しておくことが、次のステップでの成功のカギになります。
次は大人が指鉄砲で「ばーん」と子どもを撃ち、その直後に、子どもが「やられた」と言いながら倒れることを教えます。
このとき、これまでは指鉄砲で撃たれたら、撃ち返す、ということを訓練されていますから、そうではなくて撃たれた時に「やられた」と言いながら倒れる、というのは、子どもにとってかなりむずかしいことです。そこで、あらかじめこの行動だけをしっかり練習しておいたわけです。
教え方ですが、こちらが「ばーん」と撃ったら、撃ち返す暇を与えず、瞬時に「やられたー」と大人が言って倒れるふりをして、子どもの「やられたー」と言いながら倒れる行動を促します。そしてできたら、思いきり強化します。とにかくすばやくプロンプトして、誤反応のいとまを与えないことがポイントになります。
このお子さんの場合は、自分が大人を撃って、大人が派手に倒れてくれることがとてもうれしかったので、これを強化子にすることにしました。
まず子どもを「バーン」と撃ちます。すかさず「やられたー」と声かけして、同時に倒れるふりをして見せて、子どもの倒れる行動を促します。彼が「やられたー」と言いながら倒れてくれたら、すぐに起き上がらせて、こちらを撃つ行動を促します。彼が「バーン」と指鉄砲でこちらを撃ったら、思いきり派手に「やられたー」と言いながら倒れてあげます。ここでも、行動がうまく連鎖するように、彼が倒れた時にすばやくプロンプトして、次の撃つ行動を引き出すことが大切です。
つまり、大人が子どもを撃つ→子どもが「やられた」と言いながら倒れる(これが標的行動です)→子どもが撃つ行動→大人が「やられた」と言いながら倒れる(これが強化子になります)、という行動連鎖を作るのです。こうすれば、役割交代のある楽しい関わり遊びが、お菓子などの外的な強化子に頼る必要なしに実現できます。
藤坂