第105号 2009.05.30:「事例紹介(つづき)」

さて、前回では、ケリーのプログラムとその成果についてレポートさせていただきました。彼女は、本当に頑固でそれが、ノンコンプライアンスと妙なこだわり(例:7ピースのワッフルは自分で食べるけれども、最後の1ピースは完全にプロンプトしてもらわないと、3時間でも”食べない!”と決めこむ)に表われています。
皆さんは、なぜ、たかだが最後の一切れのワッフルくらいのことで、3時間も子供を椅子に座らせ続けるのか?
それくらい、プロンプトして終わらせるか、食べなくてもいいのではないか?とお思いにならないでしょうか。
もしくは、無理矢理食べさせてしまうことのほうが、簡単かもしれません。プロンプトが必要ならば、徹底的にします。でも、ケリーには必要がありません。そして、ケリーがお腹いっぱいでもう食べられない、という量は与えていません。本来食べる量よりも、少なめに与えています。そして、プログラムの前には、ご両親と情報を交換します。昨晩の6時から何も食べていないし、朝からスナックも与えていないので絶対にお腹がすいているはずだ、ということ明確にして、8ピースを用意してもらっています。ご両親がプロンプトすれば、12ピースくらいは食べる子なのです。
ここに、私たちは彼女の大変、強いこだわりとノンコンプライアンスの問題をみます。この問題を今のうちに解消しておかなければ、この先、学校へ行く年齢になり、いろいろなことを学ばないといけないときに、それが邪魔してしまうのではないでしょうか。数を覚えたり字を覚えないといけないときに、人の言うことを絶対に聞きたくない、特定の強いこだわりがあると、できる能力があっても、それを妨げてしまうのです。
ちなみに、本日5月27日のチームミーティングでの報告によると、最後の1ピースをプロンプトしてもらえるまで、食べない、というこだわりはなくなってきた、ということでした。
ノンコンプライアンスとこだわりに私たちがアプローチする際(ほとんどは、当人が指示に従うまで、待ち続けるわけですが)、彼女は癇癪をおこします。第2回目の連載に述べましたように、たった一言、”この(おもちゃの)ボタンをおしてみて”というだけで、2時間半身を投げ出して泣くような子だったわけです。
このグラフは、最初に私たちがケリーを観察した日と、ここ最近5週間分のデータを表しています。BREセンターでは、毎週1回のチームミーティングを行い、親、お子さん、チームのセラピスト全員とスーパーバイザーが出席し、1週間の様子や問題を話し合い、次の週には何を行うかを決定します。そして、そのミーティングの前には、スーパーバイザーとチームのリーダーであるリードセラピストがミーティングを行い、リードセラピストがとった1週間分のデータ(行動、プログラム全て)をスーパーバイザーに提出し、話し合います。私の役目は、ここで、リードセラピストに対する助言を行います。スーパーバイザーの主な役割のひとつは、リージョナルセンターなどに提出するレポートの作成です。このグラフはその際、私が作成しました。

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このグラフより、ケリーの問題行動がどれだけ変化しつつあるか、分かりやすいのではないでしょうか。上のグラフは、短い癇癪(5分以内)で、下のグラフは長い癇癪(5分以上)の週ごとの平均データです。折れ線グラフは、平均回数、棒グラフは、平均時間を表しています。しかし、私たちは、毎週一喜一憂することはありません。時間がたてばたつほど、ケリーのプログラムの内容は進んでいるわけですし、新しいセラピストの配属などもケリーの行動に影響を与えます。3週間前までは許していた行動も、1週間前からは、許容しなくなっていることもあります。ただ、そうなっても全体的に癇癪を起こす回数が減りつつあり、時間も短くなってきているのかなあ、ということがわかれば、嬉しいものです。
後に、皆さんに質問があります。
私は、たまたま日本人としてここアメリカで、ABAの分野に、どっぷりとつかることになったわけです。教育に興味はいつもあったとはいえ、このような仕 事、しかも最高のエージェンシー(と私は信じています)で働くことができることに、 縁を感じずにはいられないのです。アメリカ人と仕事をしていますが、私は、日本人として日本人の皆さんに貢献したいと、日々感じています有り難いことに、エグゼキュティブ ディレクターのボブ=チェン氏は、大変な親日家です。これだけの、本来なら”企業秘密”である情報を、つみきの会のMLにて流すことをむしろ、喜んでおられます。
私たちは、決して自閉症の子供たちを、健常児と全く違った子供たちである、という見方はしません。ただ、健常児より違った学び方をする、時間がかかるので、ひとりひとりに合ったプログラムを提供しなければならないわけです。同じプログラムを行っても、10人それぞ れの学び方があるわけですから。
もし、近い将来、日本に赴いて、コンフェレンスを開くとしたら、もしくは、私たちのプログラミングを本にしたら、どれだけの方が興味をもってくださるのでしょうか。具体的なプロジェクトとして計画をたてる前に、是非、お伺いしたく思います。興味をおもちになられたら、 是非、ダイレクトメールを jmoran@brecenter.comまでお願いします。

藤坂さん、この度は、私の経験を日本の皆さんと分かち合える、という素晴らしい経験を与えてくだり大変感謝をしております。

日々、健闘されているお母さん、お父さん、その他の家族の皆さん、一緒に頑張りましょう。

上原潤子

第104号 2009.05.21:「事例紹介(つづき)」

新型インフルエンザの流行で娘の中学校も火曜日から休校。おかげで毎日休日気分で(特に家内が)、曜日の感覚がありません。
さて、上原さんによる連載も三回目。今回はさらに読み応えあり、です。(藤坂)

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前回では、ケリーがいかに、”頑固”(ABAでは、目に 見えない内面のもの、例えば、性格などについては 考慮しないことになってはいますが(笑))な性格であ るかおわかりになったかと思います。そして、癇癪の 底にあるものは、”ノンコンプライアンス”の問題であ ります。この初日の経験によって新しいスキルを教え るのではなく、コンプライアンスを確立するためにまずは、出来るこ とをあえてさせることが必要であることがよくわかり ました。

お子さんによっては、初対面でも、こちらがやってく れ、と言ったことには、別に問題なく、披露してくれ る場合も あるのですが、ケリーは、出来ないだけではなく、出 来ることでも指示に従うことに問題があるわけです。

これによって、私は以下のようなプログラミングをし ました (プログラム名は英語で失礼いたします)。

ケリーは1月の最後の週より週10時間のセラピーを 始め、次の週には12時間、14時間、と少しずつ増 やしていき、 2月末までには、平均20時間になりました。そし て、ご両親の努力が実り、3月からは、週30時間の セラピーをリージョナルセンターより受けられることになりまし た。そろそろセラピーを初めて3ヶ月半が経とうとし ています。
-Come Here: 基本中の基本であると同時に、難しいスキ ルです。”おいで”と言われた場合、どこに居ようと 何をしていようとセラピストや親の所へ来る、という プログラムです。ケリーは、とにかく、何かを要求さ れると すぐに泣きわめいていたのですが、現在は、まず”お いで”と言われると、セラピストや両親のところへ来 て、 椅子がある場合は、椅子にきちんと座ることが出来ま す。椅子の前に立つ、近くに来る、では正解ではあり ません。
椅子が用意されている場合は、その椅子にきちんと 座って初めて強化子を与えます。今、教えているの は、”床から床” の移動で、ケリーがおもちゃで遊んでいるときに、セ ラピストが5.6メートル離れたところから呼びま す。セラピストも 床に座っているので、この場合の正解は、呼ばれた ら、おもちゃから離れ、セラピストの所へ歩き、その 前できちんと 座る(日本で言うあぐらをかく体勢が、幼稚園などで の正しい床での座り方、となるのでそれを要求しま す)ことです。 目の前に来ても立っているだけでは、よしとはしませ ん。

<両親のコメント> セラピーを始めるまでは、まず 来なかった。力づくで来させるか、そうすると身を投 げ出して泣くことも 多々あった。今は、1回目か2回目で自分たちの所へ 来るようになった。ただ、お店や公園などでは、は しゃいで来ないことも ある。

-Reinforcement Sampling: これが、皆さんに紹介した、”目 合わせのプログラム”です。何度も申しましたが、目 を合わせること が究極の目的ではなく、セラピストが絶えず、強化子 を試したり探したりすることが目的です。一石二鳥の プログラムです。
ケリーは、セラピーを始める前は、目を合わせること はほとんどありませんでした。現在は、プログラム中 (2分)には 平均で、13回ほど目を合わせます。セラピー中に も、自発的に目を合わせることが多くなってきまし た。

<両親のコメント> 何か欲しいものがあるとただぐ ずるのではなく、両親の目を見ることが多くなった。

– Toy Play: パズルとshape sorter の遊び方を教えています。 セラピー開始時には、木のパズル(ノブがついている やつ) 1ピースをはめるように言うと、泣き出す始末でした が、現在は、4つの木のパズルをマスターしました。 2つのパズルを教え終えた時点で、床においてあった (やったことのない)パズルに興味をもち、自分から やりにいくように なりました。shape sorterは、丸や三角などの立体的な形 (ブロック)を四角い箱の中に形が合うように入れる おもちゃです。 これは、結構時間がかかっており、3、4つのブロッ クを入れられるようになりました。ブロックを少し角 度を変えていれる、 というテクニックを教えるのに時間がかかりました が、一度教えれば、般化できているようです。

-Self-Help :自助スキルです。フォークを使って、パン ケーキやワッフルなどの朝食メニューを食べる、 ということを教えました。本来ならケリーの問題行動 を考慮すると、いきなり、Self-Help Eatingのプログラム を行うことは、 少し早すぎるかな、と思ったのですが、ご両親の悩み は、どんどん口に詰め込むので度々窒息しかけてしま うとのこと だったので、やってみました。フォークの使い方を知 りませんでしたので、テーブルから手にとって、食べ 物をさして 口へもっていくことを教え、詰め込むことを防止する には、口にいれたものを噛んで飲み込むまでは、右手 を軽く抑える、 ということをしました。これには、本当に怒ってしま い、度々身を床に投げ出して、癇癪を起こしていまし たが、 2週間もすると、椅子にはきちんと座り、フォーク も、たまにプロンプトを要求する程度で、詰め込むこ とも しなくなりました。ただ、大変面白い問題行動が、こ こ3週間ほど続いていたのですが、7ピース用意され た パンケーキを6ピースまでは、自分で食べるのです が、最後のピースだけは絶対に食べない。セラピスト が全て プロンプトしてくれたら、食べてもいい、という感じ でした。これが、彼女のノンコンプライアンスなわけ です。
私たちがやったのは、プロンプトの必要のない段階な ので、一切プロンプトなしで、食べるまで席から離れ ることを 許さない、ということでした。毎週水曜日の朝にチー ムのミーティングがあるのですが、10時半の段階 で”8時45分から、 この状態です”とセラピストに報告を受けました。担 当のセラピストには、そのままプログラムを続けさ せ、 ミーティングも続行しました。ミーティングの間、泣 きわめいていても、一切の注意を与えず、プロンプト もせず、と やっていたのですが、3週間前の水曜日には、結局食 べたのが、午後のセラピストに交代したとき、2週間 前も、同じ、そして今週は、 なんと、ミーティングが終わる10分前の11時20 分に、それまで散々泣きわめいていたのに、ぴたりと とまり、自分でフォークを 持ち上げて、ぱくり、と食べたではありませんか。 と、私たちとケリーの戦いは続くのでしょう(笑)。

今週より、歯磨きを教えることにしました。何ヶ月 も、お母さんがどれだけ頑張っても、絶対に口をあけ てすらくれないそうです。

-Songs: 幼稚園で教わる典型的な歌とその動作を教えま す。セラピー開始直後は、”歌を歌おうね!”とセラ ピストが言った瞬間 大泣きでした。最初から動作の真似などは一切要求せ ず、こちらがケリーに望むことは、ただ、逃げず、泣 かず、わめくことなく 歌が終わるまで、セラピストの前に座っていることで した。なので、ちょっとでもぐずると、やり直しでし たので、1分で終わる 歌も、30分くらいになってしまうこともあったよう です。現在は、5つの動作つきの歌のために座ること ができ、1つか2つの 動作の模倣もするようになりました。

-Story Time: これも、幼稚園や教会で必要なスキルで す。先生が本を読む間、じっと床の上に座っていなけ ればなりません。ケリーは 毎週日曜日に教会へ行くのですが、Story Timeの時間に なると、走って外へでてしまい、無理矢理お母さんが 座らせると泣くので 先生は、”無理に座らせなくてもいいですよ”となっ てしまい、全く進歩が見られない、とのことでした。
そもそも、ケリーはあぐらスタイルの 座り方すら出来ない(やりたくない)ので、そこから 教えないといけませんでした。ですから、チームに は、本のことは どうでもいいから、まずは、ケリーがおもちゃで遊ん でいるときに後ろへ座り、後ろからあぐらをかかせる ようにプロンプトすることを 指示しました。こちらが、あぐらをかいてもらいた い、ということを知らせないことに注意を払いました (ノンコンプライアンス がひどいので、出来るだけ自然に教えたかったので す)。1週間たったところで、あぐらに抵抗はなくな りました。3週間たって”おいで”と 呼ばれるとセラピストの前に来て、自分であぐらをか くとのことです。先週より、本も導入し、セラピスト が本を20秒間読む間は、 きちんと座れるようになりました。

– Outside Play: 親と手をつないできちんと歩けない、 走ってどこかへ行ってしまおうとする、などの問題が あったため、まずは、他の 遊びを教える前に、歩くことを教えることにしまし た。3分から5分、家の近所をセラピストの手をつな いで歩くことを始めました。 嫌がって手を離そうとしたり、泣く場合は、歩かず、 問題行動がおさまるまで一歩も動かない、ということ を徹底しました。すると あっというまに、20分、セラピストの手をつないで きちんと歩けるようになりました。現在は、手をつな がないけれど、セラピストと 一緒に歩く、ということをターゲットにしています。 報告によると、道を渡るときには、セラピストが手を つなごうとし、それが 嫌で泣くそうです。その場合は、泣いてるのは無視し てさっさと手をとって道を渡りきり、安全な歩道に来 たら、泣き止むまで一歩も 動きません。10分くらいまでは、適切に歩けるとの ことです。散歩の練習は続けながら、三輪車の乗り方 を教えようとしている ところです。ペダルの上に足を乗せることすら出来な い状態なので、面白くなるでしょう。

<両親のコメント> 最近は、家族と散歩ができるよ うになった!

– Picture Exchange: まず最初に、ケリーの好きなものを集 めて写真をとり、PECSのようなものを作ります。そし て、ケリーに それを一枚ずつ見せて、その物の名前を言います。 ジュースが好きなら、ジュースの写真を見せ て、”ジュース”と言うだけです。
ケリーがそれを見ている以上は、無理矢理その音を出 させたりはしません。20枚くらいの写真を使い、 2ヶ月くらいたった ところで、それらをボードにはり、どれが欲しいか? と聞きます。ケリーの場合、すぐにこのコンセプトを 理解したため、2枚の 中から選ばせていたのですが、すぐに6枚まで増やす ことができました。そして、こちらから聞かなくて も、ボードの所へ自分で 行って、欲しいものをもってくるようになりました。
現在は、その写真を渡すときにセラピストと目を合わ せることを目標と していますが、写真を渡す限りは欲しいものをあげる ようにしています。その写真の中にシャボン玉がある のですが、今週の 報告では、セラピー中にセラピストの膝に乗り、目を 合わせ、”しゃぼんだまっ!(bubbles!)”とはっきり 言ったとのことです。

<両親のコメント> 発する言葉の数が増えた。以前 は、たまにはっきりとした言葉を言うことがあったと しても、意味を成していなかった が、このごろは、欲しいものがあると、両親の手を引 き、欲しいものを指差すようにもなった。

-Verbal Imitation: 音声/言語の摸倣です。多くのエー ジェンシーと違って、BREセンターは少しユニークな練 習をします。
ケリーのように、言語を持たず、問題行動も多く、か つ、幼い場合、無理矢理椅子に座らせて徹底的に練習 するのは避け、 椅子には座らせるけれども、こちらの言ったことを摸 倣しなくても、”違う”とは言わずに、次の音へ以降 します。一度に7?8の 音や言葉を言いますが、真似をしたら、最大の強化 子、何でもいいから音をだしたら、やはり褒めたりし ます。これは、 子供が、音を出したり、言葉を発するのを楽しんでも らうまで、待つ、というわけです。言葉は当人がコン トロールする部分ですから 無理矢理練習をさせて、言葉を出すことを楽しくな い、と思ってしまわれてはいけません。なので、ケ リーの音声模倣のプログラム は、いわゆる、DTTとは違います。

<両親のコメント> はっきりと言葉を発することが 増えてきた。前は、全く言わなかった”ママ”、”ダ ダ”(お父さん)、”滑り台”、 ”シャボン玉”、”お茶”など。

– Non Verbal Imitation: 動作模倣です。これは苦労しました ね。前回で申しましたように、彼女は、出来ることが あっても やれ、と言われると癇癪を起こすわけですから。出来 ないことを教えるのが本来の目的ですが、彼女のケー スは、まずは 出来ることを探し、コンプライアンスを確立させるこ とが必要でした。最初の1週間は、まるまるセラピー の時間をこの プログラム一つに費やしました。2時間から3時間の セラピー内で、たったひとつの動作を摸倣させる、と いうことが 目標だったのです。今は、14種類の動作を摸倣でき ます。泣き叫ぶこともほとんどありません。動作模倣 が出来てきたので Receptive Instructions を紹介したところです。その他に も、色を教えようとしています。

ここまでお読みになられた皆さん、お疲れ様です (笑)。出来るだけ短く読みやすいものにしようと 思っていたのですが、 プログラムを書き出すと、全てをレポートしたくなっ てしまったので結局、長々としたものになってしまい ました。
最終回では、ケリーの問題行動のデータを載せたいと 思います。ボブ、了承してくださいっ!

Junko Uehara Moran
Program Supervisor
The Center for Behavior Research and Education

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第103号 2009.05.15:「事例紹介」

カリフォルニアでセラピストとして活躍されている上原さんによる連載第二回です。
昨日はメール処理に追われて、掲載が一日遅れてしましました。すみません。
(藤坂)

***

私たちのプログラミングで最も重要なことは、まず、 問題行動の解決に重点を置きます。親御さんは、 アカデミックな側面にばかり目をむけがちなのです が、問題行動がおさまらない限り、スキルを教えよう としても、その行動が邪魔をし、最善の結果が出ませ ん。
そして、プログラムの質は、いかに長期的な視点 をもっているかです。短期間内に、こちらの思っている ことをさせる、ということが、多くのエージェンシー がやりがちなことなのです。

例を挙げれば、去年、私の予想以上に皆様から反響の あった”目合わせのプログラム”などにも、短期的プ ログラミングと長期的プログラミングの違いがわかる かと思います。
私たちは、子供に目を合わせさせるの に、強化子をセラピストの目元にもってきて 目を偶然でも合わさせて、強化する、という方法をと りません。そして、”こっちを見て”ということも言 いません。でも、短期的に効果を出すには、これらを やれば、ほとんど成功するのはわかっています。そし て、お子さんによっては、それが習慣となるかもしれ ません。
でも、セラピストが帰った瞬間に、目を合わ せることをしなかったり、セラピーが行われなくなっ ても、生涯、習慣として目を合わせるようになるので しょうか?セラピー内だけで、効果をあげても、で は、セラピストなしで、自立的に行ってもらいたい場 合はどうしたらいいのでしょうか。皆さんは、このよ うな疑問をもたれたり、実際に経験したりしてはいな いでしょうか。

ですから、あのプログラムのように、まずは、子供を 椅子に座らせ、セラピストも最初は正面に座ります。 そして、偶然にでも目を合わせてくれるまで、ひたす ら待つわけです。そして、待った結果、目を合わせた らその瞬間に、強化子を与えます。そしてこのとき、 子供の年齢が高かったり、高機能である場合はとくに ”目をみてくれてありがとう!!”などは言わない方 が効果的であることも発見しました。
なぜかという と、ノンコンプライアンスをされてしまうと困るから です。ただ、褒めるけど、目を合わせたことには、と くに反応はしなければ、当人はあまり深く考えないと 思います。
そうこうしてるうちに、なんか知らないけ ど楽しいや!と思ってくれれば好都合です。しかし、 目を見ることを欲しているんだな、というこちらの思 惑がばれてしまうと(笑)、じゃあ見てあーげない、 となってしまう高機能のお子さんもいます。

正直に言いまして、現在のエージェンシで仕事を始め る前の私は、シャボン玉やクッキーを目元にもってい くこともしましたし、目を合わせたことを褒めたこと もあります。今でも、自然に、褒めてしまいそうなと きもあります。でも、ボブ=チェン氏は、なぜいけな いのか、ということを、教えてくれます。
これまで、 短期的に成果をだすやり方で教えた方や、目が合った ときに、言葉で褒めた人に対して、それが悪い結果を もたらしますよ、と言っているのではありません。も し、これをお読みになって、納得された方は、今日か ら変えればいいわけです。
言葉で褒めるのがいけないのではなく、目 を合わせたことを大きくとりあげてはいけない、とい うことなので、女の子であれば、”じゅんちゃん、か わいいね!”とか、男の子であれば、”じゅんくん、 かっこいい!”とか、目、以外の褒め口でいけばいい わけです(目と関係なくていいのです)。

さて、私たちのプログラムを一番わかりやすく紹介す るとすれば、私の受け持つ、実際のケースについて お話したらいいかと思います。

ケリー(仮名)は、2歳10ヶ月の女の子です。1月 に私の担当となることが知らされ、ボブ=チェン氏、 リードセラピスト(前回で挙げたシニアセラピストと 同じような役職です)と3人で、どのようなスキルを もっている子なのかをみるために、1月上旬に彼女の 家庭を訪問しました。親御さんの面接では、 彼女の行動は、
1、自分の思い通りにならないと、泣き続ける。身を 床に投げ出していつまでも泣き続ける。

2、親の言うことは一切聞かない(泣かれるのも困る し、言うことも聞かないので、親御さんはいつも妥協 して、やってあげる)。

3、物をあたりかまわず投げる。でも、人や自分を傷 つけようとはしない。

4、飲み物は、オレンジ色の液体(ビタミン剤の入っ たオレンジジュース)のみ。容器の色が変わると、全 く飲まない。

5、食べるときに、お皿にあるもの全部を口につめこ むので、よく喉につまらせて、危険なこともあるが、 言うことを聞かないので、つまらないように親は、い つも見ているしかない。

6、朝ご飯にパンケーキやワッフルをあげたいが食べ ない。フォークやスプーンも自分では使わない。

7、散歩ができない。親が手をつなぐのをいやがるの で、走って逃げてしまうか、それを無理矢理やろうと すると、身を投げ出して泣く。

8、まったく、適切に遊ばない。おもちゃは、全部投 げるだけ。まるいものに固執する。それをとりあげよ うとすると泣きわめく。でも、ティーカップで遊ぶの が好き(まあ、これ、上からみると丸いですものね、 と言ったら、”そうね、気付かなかったわ” と言ってました)。

9、言葉は基本的には全く発しないが、たまに、3語 くらい発したのを聞いたことがある。まず、こちら が、言わせようとすると絶対に言わない。

10、このごろ、欲しいものがあると、指をさしてわ めくようになった(親御さんとしては、良い行動とし て挙げていました)

11、おむつをしている。

12、スケジュールがめちゃくちゃ(これは、私たち が判断しました。親御さんのほうは気にかけていない ようでした)。11時に寝て、3時ごろ起きて遊ぶこ ともあるし、朝ご飯を食べるのは、朝の11時ごろ。

13、兄弟姉妹に対しては、笑顔をむけたり、周囲に いることは好きなようである。

と、まあ、このようなところです。

さて私たち3人は、彼女に合わせたプログラムを組む ために約1時間少々の予定で、現在どのようなスキル をもっているのかを調べる予定でした。
私たちのところへまず、自分からは寄って来ないの で、彼女が遊んでいるところに加わろうとしました が、その場から去ってしまうか、全く目を合わせな い、 問いかけには答えない、見向きもしない、そして持っ ているおもちゃを触ると全く気にしないか、嬉しくな い声をだして、ぐずったりしました。
くすぐったり、マッサージをしても、全て、ぐずりま した。

気がむくと、年があまり変わらないお姉ちゃん のところへ行くか、お父さん(お母さんは その日は家にいませんでした)のところへ駆け寄りま した。20分ほどすると、彼女が出来ること、がわ かってきました。ディズニーのおもちゃで、 ボタンをおすと、ミッキマウスがぴょーんとでてくる ものは、ボタンをおしたり、まわしたりすることがで きる、ボールを投げることもできる、 ボールをバケツの中に入れることもできるわけです。

そして、彼女がおもちゃで遊ぼうとした瞬間に、私 が、先におもちゃに触り、”ボタンをおしてみて”と 言いました。そう言った瞬間です。その場にひっくり 返って泣き始めたのです。ものすごい大声でした。
ちゃんと座るように言うと、更に大声をだし、今度は お父さんのいるほうへ、逃げようとしました。そこを すかさず、ボブ=チェン氏がその子の脇の下をおさえ て、逃げさせないようにしました。
すると今度は、ひっくり返って泣き叫ぶのみでなく、手足を ばたつかせました。”怒り”のようなものを感じまし たね。そして、何度も何度も逃げようとしました。
多分、30回くらいは試みたでしょう。そして、疲れ てきて、自分から座るようになり、少し、泣くのがお さまる毎に、私が、ボタンを押す様に指示 しました。そして、同じことの繰り返しです。力もか なり強いため、プロンプトすら出来ない状態でした。

そして、30分ほどすると、段々、逃げない ようになってきました。同じように、大声で体をばた つかせながら、床にひっくり返って泣き続けるのです が、逃げることはしなくなりました。
これは、30分たったところで、逃げさえしなけれ ば、この人たちは、自分の体に触れることがない、と いうことがわかった、ということです。

この泣き叫びは、なんと2時間半続いてしまいまし た。さぞ、お父さんは辛かったと思いますが、多くの エージェンシーから私たちを選んでくださり、 私たちのアドバイスを徹底して受け入れる、と最初に 言ってくださったので、言われた通り、泣いている間 は、娘さんと目を合わせない、手を差し伸べない、 言葉でも励まさないことを2時間半頑張ってください ました。2時間の間には、多少、癇癪がおさまって、 自分で床に座ることもあったのですが、 指示がでる瞬間に、床に身を投げ出す、ということを 何度も繰り返し、結局、私が彼女の隙をみて、プロン プトをして終える、というところまで しかいきませんでした。

実際のセラピーならば、自力 でやるまでこちらも、いつまでも待ち続ける、という ことをするのですが、時間に限りのあった 日なので、悔しかったですが、それはあきらめまし た。完全に泣き止むまではその場から去ることは許し ませんでしたが、プロンプトすら、真の プロンプトではなかったので(ぼーっとしてる隙=力 を抜いてる隙をみて、さっと、手でボタンを押させ た、ということです)、今回は彼女の勝ちでした。

ただ、この2時間半で誰の目にも見てわかったのは、 これまで適切なセラピーを受けず、好き勝手にやって きたケリーも、この3人の側からは 離れることはできないと観念して、自分から逃げない ようになったことでした。ものすごい勢いで泣いてい たため、恐らく、その”価値”なるものは この分野に携わっていなければ、わからなかったと思 います。彼女のお父さんも、よほどの覚悟がなけれ ば、途中で、”もう、やめてくれ”と おっしゃったかもしれません。

これがケリーと私たちの初日でした。彼女のセラピー は、1月末からの開始となりました。この次の回で、 ケリーのプログラムと行動がどのように変わっていっ たのか をお話したいと思います。

Junko Uehara Moran
Program Supervisor
The Center for Behavior Research and Education

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第102号 2009.05.07:「自己紹介など」

ミニマガつみき、今月の担当は、カリフォルニアで活躍されている日本人セラピストの上原さんです。
上原さん、このたびはご多忙のところ、快く執筆を引き受けてくださいまして、ありがとうございます。
4 回の連載、よろしくお願いします。(藤坂)

☆ ☆ ☆

この度、藤坂さんより、執筆の依頼を受けた上原です。現在私は、カリフォルニア、インランドエンパイアを本拠地とする、The Center for Behavior Research & Education というABA サービ スエージェンしにて、プログラムスーパーバイザーを勤めています。つみきの会へは、約1年半前に入会いたしました。

まず初回は、大変恐縮ではありますが、私がどういう経緯をもって、ABAの分野で働くこととなったのかと、 どのようなプログラムを提供しているのかをご紹介させていただきたいと思います。

約7年前に、結婚を機にここカリフォルニアに住むこととなりました。日本にいたころは、ABAどころか 自閉症がどういうものなのか、ということも、あまり知りませんでした。健常児を教えていた経験はあり ますが、障害を持った子供と接する、ということはほとんどありませんでした。
最初に住んだサンディエゴに着いて間もなく、新聞にて、”障害児教育に興味のある日本人で、英語が わかる人”とだけの求人を見まして、早速応募してみました。そして、面接の間に、自閉症はどういうもの なのか、そして、自閉症をもった子供たちを教育するのに効果的なのが、ABAである、ということを 簡単に学びました。もとは、このエージェンシーは、日本から来た家族を受け持つこととなり、お母さんが 英語を話されないので、このお母さんとセラピストやスーパーバイザーの間のやりとりを私に助けてもらい たいということでした。でも、面接中に、”きみ、セラピストやったら?”と勧められ、あまり考えずに、”ぜ ひ!”と返事をしました。

こうして、なぜ、ABAなのか、ABAとは何であるのか、ということをはっきり知らないまま、実践に入ることとなったのです。このエージェンシーでは、約1年、パートタイムとして日本人の2家族をクライアント として仕事をしました。正直いって、最初は戸惑いましたね。”えー、セラピーってこんなにぎゃーぎゃー わめかないといけないの?”と(笑)。自分の受けもったお子さんの進歩を見ることに大変やりがいを感 じました。そして、それから約1年たったころ、主人の仕事の都合で、リバーサイドへ引っ越しました。ロスより真東に1時間半、サンディエゴより2時間ほど北にいった都市です。そして、何の期待もしていなかったこの地で、私の人生を大きく変える出会いと経験が待っていたのです。

せっかく、ABAの経験を積んだのだから、経験をいかして仕事を探してみようかな、と思い、リージョナルセ ンターへ電話して、エージェンシーの名前を教えてくれるように頼んだのですが、窓口では、”ABAって 何?”といったところで、話になりませんでした。ネットで検索しても見つかりませんでした。そして、”やむな く、”かの有名な、ロバース・インスティテュートに、履歴書を送ることになったのです。ここで、やむなく、と 申しましたのは、最初から、ロバースの支社が、リバーサイドの地域にあったことは存じていました が、ABAをかじったあとに、”まさか、あのロバースに連絡をとるなんて、恐ろしい” と思っていたのです。以前のエージェンシーで、ロバース氏の名前は頻繁に耳にしていましたから。ABAの発展にこれほどまでに、貢献し、影響を及ぼした、ロバース氏が設立したエージェンシーに私なんて相手にされないだろう、などと思っていたのです。

ところが、履歴書を提出して、すぐにロスの本社のスタッフより連絡が来ました。そして、あっという間に 面接となり、セラピスト(ここでは、セラピストは、インストラクターと呼ばれています。正式には、behavioral instructor、です)として雇ってもらうこととなりました。この当時 の、サイトディレクター(リバーサイド支社にてのトップ)が、現在私が、勤めている、The Center for Behavior Research & Education (BRE Center)の Executive Director であるボブ=チェン氏でありました。

このボブ=チェン氏のもとで行われた、トレーニングは、これまでの経験やそれなりの自信を粉々に打ち砕 かれる、大変厳しく、質の高いものでありました。全く、新しい仕事に就いた、という感覚で、毎日が新し い発見でした。まず、ロバースで行われる新人トレーニングは、シニアインストラクターのセラピーに 加えられ、プログラムやbehaviorをクライアントごとに学びます。これは、シニアインストラクターの前で、 一人前にプログラムをこなせるようになるまで続くのです。よく言われたのが、”ここに誰もいないと思っ て、自分のセラピーをやってください”ということでした。実際は、しっかりと見張られていたわけですが。

それから、週に一度、クリニックミーティング、なるものが行われました。これには、親御さん、お子さ ん、そして、チーム全員とこのケースの担当スーパーバイザーが出席します。
ここにて、一週間のまとめ、というか、どういう問題行動がでてきたのか、先週決めた介入の成果、プログラムの進み具合などを話し合います。 しかし、ここで私が一番恐れていたのは、プログラムのデモでした。ボブ=チェン氏は、新人だから、とい う言い訳を一切くれず、全員が見る中で、いきなりデモをさせるわけです。緊張のあまり、眠れなかったり、 胃が痛くなる新人もいました。そして、デモのあとは、スーパーバイザーや、シニアによるフィードバッ クとなります。本当に、最初はこれが嫌でしたね。フィードバックを受けるのは、自分やお子さんのためになるので、私は素晴らしいことだと思いましたが、経験を自分よりずっと積んだ人たちの間でやるデモは辛かったですね。しかし、これも2、3ヶ月もすれば、なんとも思わなくなりましたが。
最初の3ヶ月で、以前の1年の経験を覆してしまうほどの、知識やテクニックを学びました。以前は、パー トタイムでしたが、ここではフルタイムでありましたのと(週35時間から40時間)この週に一度のペー スでチーム全員で、クライアントについて話し合う、というのがやはり一番大きな差でしたね。そして、クライ アントは、全員、週に35時間から40時間のセラピーを受けていました。6ヶ月後に、私はシニアイン ストラクターになったのですが、その数ヶ月後、残念ながらボブ=チェン氏は、他のエージェンシーに移ら れてしまいました。

その後、私は、ワークショップベースのクライアントを担当するコンサルタント、アシスタントスーパーバ イザーを勤めました。そして、2007年の冬より、 ボブ=チェン氏が設立した、BREセンターのスーパーバ イザーとなり、現在に至るわけです。

ボブ=チェン氏との出会いは私のABA人生を完全に変えることとなりました。ABA が批判を受けがちな、 ”ロボティック”(言われたままだけを真似するロボットのような)な子供を造り上げる、という側面を 打ち砕いたわけです。ボブのプログラムを受けている子供たちは、とても生き生きとして、毎日を楽しんで います。これは、高機能でもそうでなくても、です。
例え、高機能ではなくても、ふとその子供がソファでテレビを見ている姿は、健常児と見間違えてしまうほ どです。そして、この子供たち全員が、ロバースの成功したリサーチ結果による、”週に35時間から4 0時間のセラピー”を受けていないのです。40時間 の子もいますが、10時間足らずの子もいます。しかし、子供たちの行動やスキル改善に劇的な効果をう け、私たちのプログラムは、大変高い効果を得ています。LAフィートによる親御さんたちの、意見交換には 私たちのプログラムとボブの名前が、頻繁にでているようで、サービスをまだ提供していない地域からの 問い合わせも多くあります。そして、まだ設立1年半足らずのエージェンシーではありますが、インランド エンパイア以外に、サンタクラリータバレー(ロス近郊)とベイカーズフィールドにもサイトが設立されました。

ここまで(飽きずに)読んでくださった皆さん、ありがとうございます。次回は、私たちのプログラミング とその質についてお話をさせていただきます。

Junko Uehara Moran
Program Supervisor
The Center for Behavior Research and Education

第105号 2009.05.30:
「事例紹介(つづき)」

第104号 2009.05.21:
「事例紹介(つづき)」

第103号 2009.05.15:
「事例紹介」

第102号2009.05.07:
「自己紹介など」