体験記
キスケの母の体験
わが家の一人息子、「キスケ」の赤ちゃん時代は何もかもが順調でした。
生後1週間で、夜は4時間ぐらいまとめてねんね。
生後1ヶ月半を過ぎる頃には、何と大人とほぼ同じ8時間睡眠!
夜の10時ごろから朝までぐっすり眠ってくれました。
あやすとよく笑い、離乳食もパクパク食べ、体も丈夫で1歳7ヶ月で突発性発疹になるまで、一度も熱を出した事が有りませんでした。
赤ちゃんの頃のビデオを見てみると、 生後9ヶ月頃、「〇〇ちゃん(名前)」 と呼ぶと、くるっと振りかえりニコッと笑顔。
「ば・っ」とあやすとキャッキャッと声をたてて笑っていました。
キスケが他の子と違ってきたのは1歳のお誕生日頃のことでした。
まだ笑顔は残っていましたし、お父さんが呼ぶとそちらをむいていました。
でも他の子と比べると、あきらかに「人より物の方に興味がある」のです。
リモコンが大好きで、よく裏返していました。電話の子機も好きで、テーブルの上でグルグルグルグル回していました。
そして、1歳2ヶ月の頃のビデオ。
呼んでも呼んでも振り向かない。
公園では遊具を無視してベンチの前を行ったり来たりを繰り返す。目が合わない。手もつながない・・・・。
誰から見ても完全に自閉症です。
ただその頃は、近所に同じ位の年の子が少なく、また初めての子供という事もあり、「ちょっと遅れているだけ」と楽観的に構えていました。
「いつになったらバイバイしてくれるんかな?」なんて、夫と笑いながら話していました。
本格的にあせり出したのは1歳半検診の時です。 言葉が出ている子も多く、指差しも上手です。
息子と同じ様に走り回ってる子も何人かいましたが、彼の走り方はその子達とは全く違い、異常でした。
ホワイトボードの周りを50周ぐらい、まわり続けるのです。
案の定、最後まで残されてMRIと脳波の検査を勧められました。
それからの私は、パソコンで「自閉症」について調べまくりました。
見事にキスケの症状と一致しています。
夫や母に「自閉症かも・・・」と言うと、「まだ1歳半やのに決めつけるな」 「あんたの育て方が悪い」とあっさり切り捨てられてしまいました。
今思えば一番辛く苦しい時期だったかもしれません。
そして、2回目の脳波の結果を聞きに行った日についに宣告されました。 2歳5ヶ月の頃でした。
分かってはいたものの、やはり「自閉症です」と言われた事は大変ショックでした。
昼間息子と2人っきりでいると気がおかしくなりそうで、「もう、こんな子いらない!」と本気で考える事もありました。
そして2ヶ月が過ぎた頃、つみきの会のセミナーに参加し、行動療法に出会う事ができました。
自分達にできるかどうか分からないけど、ぜひやってみたい!と思うようになりました。
2歳7ヶ月頃の事です。
それまで、息子が出来ていた事、 「バイバイ(手を振る)」「いただきます(手を合わせる)」それと、名前を呼ばれたら手を挙げる・・・の3つだけで、しかもよっぽど気が向いた時にしかやってくれませんでした。
1歳頃よく言っていた「まんま」という言葉も完全に消え、それどころか嬉しい時によく叫んでいたキャ・ッという奇声さえも出なくなっていました。
声を出すのは泣く時だけ、というヒドイ状態でした。
キスケは食いしん坊なので、お菓子を見せるとすぐに椅子に座ってくれました。
その点は楽だったのですが、物覚えの悪さには苦しみました。
・・・いや、苦しんでいる最中です・・・。
ある日、ちょっとした事件がおきました。
「こんにちは」と指示をだし、キスケがお辞儀をする、というのを教えていたのですが、すぐに手をだし「バイバイ」をしてしまいます 。
そこで、私がその手をひざまでおろし、その後、頭を押さえてお辞儀をさせました。
それを何度か繰り返すうち、自分で頭を下げるようになったのです。
「こんにちは」が出来た!!と嬉しくなりました。
でもその時、そばで見ていた夫が「ちょっと待って」と言い、交代する事になりました。
夫が「バイバイ」と言うと、キスケは手を振りました。 そして、夫がその手を膝まで下ろすと、なんとお辞儀をしたのです。
そうなんです。彼は「こんにちは」という言葉に反応したのではなく、 「手を膝まで下ろされる」事を合図に頭を下げる。
そういう風に覚えてしまっていたのです。
自閉症の恐ろしさを改めて感じ、背筋がゾッとした出来事でした。
(その後、この奇妙な動作はしばらく消えませんでした) 私は家事が苦手で何をやってもトロく、なかなか療育に時間をまわす事が出来ませんでした。
でも、何もしないよりは少しでもやったほうがマシと思い、1日30分~1時間程度の訓練を細々と続けてきました。
ただこの5ヶ月の間に4回も高熱をだして、その度に中断せざるを得なかったので、(知恵熱か?という噂も・・・(^_^;))平均するともっと少ない時間だったかもしれません。
そして現在、キスケは3歳1ヶ月になりました。
今の息子は以前とは別人の様です。目がよく合うようになりました。
外で、勢い余って逃走を始めてしまっても、名前を呼ぶと戻ってきます。
「お手々つなご」と言うと、嬉しそうに小さな手を差し出してくれます。
両親そろっている休日は、片親だけでは物足りず、「母ちゃんもつないで」とばかりにもう片方の手を差し出してきます。
親と話している相手は例え初対面でも、゛安心出来る人″と思っているようで、その人とも手をつなぎたがります。
(時々抱きついたりして、「やり過ぎ・・・」と思うこともありますが)
大好きな、じじばばに久しぶりに会うと、嬉し恥ずかし・・・といった様子で、 はにかみながら隠れてみたりして、「こんな複雑な表情をするキスケは初めて」とびっくりされるようになりました。
教えていないのに復活した言葉、「まんま」。そして新しく出てきた「イヤイヤ」。
両手を差し出して笑顔で「あっほ!(注:抱っこ)」。そして「オ・ハ・ヨ」。
行動療法を始めて5ヶ月あまり・・・、 他の(ABAをされている)お子さん達とくらべると随分と成長が遅く、ガッカリさせられる事も多いのですが、それでも始める前の何にも出来なかった頃と比べればものすごい成長です。
頑張っている息子の姿を励みにして、これからも地道に続けて行きたいと思っています。